厚生年金基金解散の流れから読み解く、これからの時代に最適な退職金制度とは

多くの企業が加入している厚生年金基金が、いよいよその役割を終えようとしています。厚生年金基金は、厚生年金制度を補完する画期的な制度として、昭和41年に経済界の強い要望を受けスタートしました。その後約半世紀を経て、平成26年4月の法改正により厚生年金基金の新規設立が認められなくなると同時に、財政状態の悪化した厚生年金基金は同年から5年間の特例を設け、その精算=解散を促す措置が取られることとなりました。

これからほとんどの厚生年金基金が無くなります

 なぜ、このような事態となったのでしょうか。
 厚生年金基金(以下、「基金」)はその設立形態から、企業が単独で設立する「単独型」、企業が関連会社と一体となって設立する「連合型」、同一業界の企業が集まって、一定のルールの元に共同で加入する「総合型」の3つに分けられます。中でも総合型基金は、時代の変遷とともに業界全体の年齢構成の変化=高齢化などにより、設立時の給付金水準を維持できなくなるケースが多く見られるようになりました。これは、国の厚生年金制度と全く同じ現象で、少子高齢化の影響に他ありません。

また基金は、国に代わって基金自身が、その資産(いわゆる代行部分)と基金ごとに取り決めた厚生年金の上乗せ部分の掛金を運用します。年度によって差はあったものの、バブル期までは資産運用も比較的良好でした。しかしながら、バブル崩壊後の長いデフレの期間に多くの基金が資産の運用に窮し、年金資産が毀損していくという事態を招き、マイナス分を取り戻そうと様々の手段を講じました。記憶に新しいところであるかと思いますが、AIJ投資顧問が、顧客の厚生年金基金の資産を預かり、その運用に失敗、資産のほとんどを消失させた事件が最終的な決定打となり、冒頭の基金解散を促す法改正へと結びつくこととなりました。

以上のように、基金は「少子高齢化」、「資産毀損」という両面から強い影響を受け、一気に「解散」の方向へ向かっております。平成26年度末に531あった基金が、平成27年9月末には377に減少した事実が語るとおり、解散のスピードは加速しています。残った377基金にしても、うち229基金の解散が決定済で、今後数年内にほとんどの基金は無くなることが予想されています。

基金がなくなった後をどうするのか?

 基金そのものが無くなった後、基金加入企業はどういった方向へ向かうべきなのでしょうか。
周知のとおり、基金は厚生年金と密接な関係があります。だからと言って基金が無くなればただ単純に「厚生年金の上乗せが無くなるだけ」と考えるのは短絡的です。なぜなら厚生年金の上乗せ部分の掛金は企業のみが負担しているからです。企業が掛金を負担するということは、退職金制度そのものに他ならず、従業員にとっては退職金の一部が無くなることと同義です。従って基金加入企業の多くは、ごく自然に「基金無き後、失われた退職金の一部をどうするか」について検討するはずです。ただ、解散時点で国から預かっている厚生年金資産の一部である代行部分まで毀損してしまった、いわゆる「代行割れ」基金は、加入企業が毀損した部分を負担しなければならず、「その後」を考える資金的余裕がないケースが多く存在するのも事実です。しかしながら、基金解散は従業員にとって不利益であることは変わりがありませんので、代行割れに直面した場合であっても「基金が無くなった後をどうするか」の検討は必要です。

では「その後」についてどのような視点に立って、これを検討すべきなのでしょうか?
 まずは退職金制度のあり方について深く考える必要があります。今までの日本の退職金制度は、終身雇用を前提とした制度設計が基本です。内容としては、定年時にいくら支給するかを決める「確定給付型」の制度で、その計算方法は退職時の基本給等に勤続年数に応じた係数を掛けるといったものです。この点に関しては、そのまま過去の考え方を継承し今日に至るケースが大半ですが、終身雇用は当の昔に崩れ、雇用が流動的になった今、「何年勤続したらいくら支給しなければならない」という定額支給の概念は見直す必要があります。また定年時退職金の支給年齢について、継続雇用が義務づけられ、65歳退社がスタンダードになりつつある中でも60歳支給が大半を占めます。60歳以降5年間、給与を支払うという前提に立った上での退職金水準やその支給時期に関しての議論も大変重要です。

退職金支給のための財務運営の方法についても再考の必要があります。前述の確定給付型の退職金計算方法には、常に企業が抱えなければならない「退職金債務」の問題が発生します。これは毎年決算期末に自己都合要支給額(期末に在籍している従業員の自己都合退職金額の合計額)を計算し、その金額を退職金債務として認識するというものです。認識した債務については、これをどう処理するかといった「退職金債務マネージメント」が不可欠です。多くの企業が、少しでも財務内容を改善しようと毎年度数字をやりくりしてこの債務と格闘してきました。

このような視点から考えると、今回の基金の解散の流れは、これまで主流だった人員構成、給与、勤続年数等によって左右される「確定給付型」の制度設計、それに伴う「退職金債務マネージメント」が雇用の流動化の時代にはマッチしないものであることを浮き彫りにし、次なる時代の退職金改定の方向性をはっきりと示したと言えます。退職金制度の改定は頻繁に実施することが不可能であるからこそ、基金解散を突然降りかかった災難ではなく、より効率的で効果のある退職金制度を構築する絶好の機会であると捉え、将来の労務運営・財務運営を前向きに考えることこそが、最も重要であると考えます。

新たなる退職金制度の考え方

 それではどういう点に着眼して新たなる退職金制度を構築すればよいのでしょうか?
 まず、「従業員は不定期に入社し、不定期に退社する」ことを前提に退職金の算定方法を考えることです。具体的には毎月の退職金支給のための費用をあらかじめ定め、在籍月数の合計額を退職金額とする算定方法です。例えば入社からの在籍期間が5年の従業員の場合、60ヶ月×月額5,000円=300,000円という計算になります。近年は大企業であっても、新卒の定期採用は継続しているものの、中途採用は当たり前となっていますし、定年まで勤めない中途退社も多く見受けられますので、違和感は全くないと考えます。

 次に、退職金は給与の一部であると考え、毎月の給与と同じように損金処理ができる制度を取り入れることです。退職金は一時金として現金で支払った場合、当然損金処理ができますが、それは退職時の1回限りです。従業員が入社してから退社するまでの間、毎月退職金相当分を損金処理していくほうが、複雑な退職金債務マネージメントが不要な分、企業としての負担は軽くなります。

時代の要請により広がりをみせる確定拠出年金

 上記2点を実現できるものは確定拠出型の制度しかありません。中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、確定拠出年金などがこれに該当します。中でも確定拠出年金は、確定拠出年金法という厳密な法律に基づいた制度であり、退職金支給の目的に合致した1円単位での制度設計が可能です。また基金解散後、いわゆる代行部分が毀損していない基金の残余財産を非課税で受け入れることでき、基金の後継制度として最適な制度でもあります。

 基金解散に伴い、「その後」の後継制度を考える場合、実際には基金相当部分を見るだけでは不充分です。基金の解散は従業員にとって、退職金の一部が無くなったことと同義であることはすでに述べた通りです。従って、基金の後継制度の導入は基金相当部分を含めた退職金制度全体の改定を意味します。退職金の制度の改定を行なう場合、制度改定前日時点の過去の退職金額は保全しなければなりません。その際、保全すべき過去分退職金は、①一時金として精算するか、②実際の退職時に支払うか、③新しい制度に持込むかを選択することになります。①の場合、従業員が受取った一時金が一時所得として課税される、②の場合、退職金債務として抱えることになるといったことを考えると、③が最善の方法です。③の方法を取る場合も確定拠出年金には、分割移換という有利な制度があります。分割移換とは、従業員個々人の過去分の退職金額を4年から8年の任意の期間で確定拠出年金の資産として均等に分割して移換することで、その分割移換金は損金処理ができ、また受取る従業員も非課税になるという、確定拠出年金のみに認められた制度です。

 最近、新聞報道でよく「確定拠出年金」について書かれた記事を目にします。そのほとんどが、制度内容の改善に係ることで政府も確定拠出年金の規制を徐々に緩和し、将来の退職金制度の柱として、企業、個人とも加入しやすい制度に育てようとしていることが読み取れます。時代はまさに確定拠出年金へと動き出しています。

 ここまで、基金の解散からどんなことが見えてきたか、次なる時代の退職金制度はどんな形が最適なのかを考えてまいりました。退職金制度はその設計の仕方、運営の方法を誤ると、とてつもなく厄介なモンスターとなります。従業員のモチベーションを最大限にアップさせ、なおかつ企業の負担を最大限に減らす退職金制度を作り上げるためには、思い切った決断と柔軟な発想が必要です。
退職金制度を考えていく上で、今回のコラムが少しでもお役に立てば幸いです。