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フロー体験 喜びの現象学

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『フロー体験 喜びの現象学』(M.チクセントミハイ 著、今村 浩明 著/世界思想社)

 ミハイ・チクセントミハイはハンガリー出身のアメリカの心理学者で、フローという概念に基づく最適経験の理論を作り上げた。ここでいう「フロー」とは、一つの活動に深く没入しているので他の何ものも問題とならなくなる状態、その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やすような状態を意味する。
 著者は、人は最も楽しい時にどのように感じているか、そしてそれはなぜなのかをできるだけ正確に理解しようと努め、まず、芸術家、競技者、音楽家、チェスの名人、外科医といった「熟練者」、自分が本当に好きな活動に時を費やしている人々数百人を対象に研究した。しかし、本書で最も興味深いのは、「第7章 フローとしての仕事」に登場する、生活のためにする仕事を「自己目的的に働く」ことによって楽しんでいる人々の事例である。

 例えば、イタリアのアルプスの小さな村に住む76歳のセラフィーナ・ヴィノンは朝5時の乳搾りから日が暮れるまで、長時間の骨の折れる重労働に従事していたが、生活の中で何をするのが一番楽しいかと尋ねられると、「乳を搾ること、牛を牧場に連れ出すこと、果樹園を剪定すること、羊毛を梳くこと」と答えたと言う。同じ地区に住む長老10人が面接を受けたが、全員がセラフィーナと同じように仕事を「最適経験の主要な源泉であり、時間と金とが十分にあっても同じことをする」と答えたのである。彼らは仕事と自由時間を明確に区切っておらず、自分が自然の中で果たす役割に満ち足りていた。
 一方、南シカゴにある鉄道車両の工場で溶接工として30年以上も働くジョーは、昇進の機会を全て断り、組織の最下層に属していたが、操業過程の全てを理解しており、経営者をはじめ、仲間の誰からも尊敬されていた。彼は「自己目的的パーソナリティ」の持ち主で、小学校4年で学校をやめていたが、子供の頃から機械、特に欠陥のある機械に魅せられており、故障した機械は全て修理できた。彼の創造性は家庭でも遺憾なく発揮され、自宅の質素なバンガロー周辺に花や植木を植えこんだ複雑な石庭を作ったり、虹が作れるスプリンクラーを開発して取り付けたりしている。

 現代人の大半は「必要ではあるが楽しくない仕事と、楽しいけれども複雑さの乏しい余暇」に二分された生活をおくっている。著者は我々が身体的かつ精神的資源をフローを体験するために用いず、自由時間の多くをテレビや映画鑑賞、競技場でプロスポーツ選手を見ることなど、大衆文化に費やし、偽の現実にしか過ぎない刺激パターンによって浪費し、誰かに金を儲けさせるために貢献しているのではないかと指摘する。そして、「仕事を楽しむことを学び、自由時間を浪費しない人々は、自分の生活全体がより張り合いのあるものになったと感じるようになる」と語る。

 本書は1990年にアメリカで出版後、13ヶ国語に翻訳され、世界で広汎な読者を得ている名著である。小さな活字で300ページを超えるため、1時間で読めてしまうハウツー本とは対極にあるが、仕事を楽しい挑戦に転換したり、困難な状況を解決するためにどんな能力や視点が必要か、理論的展望と方法を示唆している。経営者や人事に関わる管理職の必読書として推薦したい。
『フロー体験 喜びの現象学』(M.チクセントミハイ 著、今村 浩明 著/世界思想社)

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