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ゆっくり、いそげ ―― カフェからはじめる人を手段化しない経済

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『ゆっくり、いそげ ―― カフェからはじめる人を手段化しない経済』(影山知明 著、/大和書房)

 中央線の西国分寺駅の改札を通る乗車人数は、東京-尾間で2番目に少ないと言う。著者は2008年、生まれ育ったこの地に「クルミドコーヒー」というカフェを立ち上げた。本書は開業から7年間の歩みと、その活動や経済に対する著者の考えを綴ったものである。

 東大法学部卒で、マッキンゼー&カンパニーを経てベンチャーキャピタルの創業に参画という経歴を持つ著者は、現代の勝ち組と言っていいだろう。だが一方で、利益のみを追求し、地域経済を疲弊させる戦後のビジネスの在り方に疑問を感じていた。そして、カフェをベースに利益のみを目的とする経済とは異なる様々な試みを行っていく。
 例えば、店の立ち上げには1口5万円の「クルミド債」を発行。出資者への利子はお金でなくコーヒーで支払う。あるいは、長野県東御市が生産する国産クルミを支援するため、テーブルの上に殻付きクルミの入った籠を置き、お客に自分で割って試食してもらう。クルミは店内で販売しているほか、秋には収穫ツアーを開催。輸入クルミの3倍の価値を体験してもらうことで、日本の農業を支援している。
 一方、お客の少しでも安くおトクな物を手に入れたいという「消費者的人格」を刺激するポイントカードや割引サービス、チラシの配布などは一切しない。それでも、同店は2013年に「食べログ」のカフェ部門で第1位を獲得。開業6年で18万人が来店し、経営が軌道に乗ってからは、店内コンサートを開催したり、取次を通さない「クルミド出版」を立ち上げている。

 タイトルの「ゆっくり、いそげ」は、ラテン語で「festina lente(フェスティナ・レンテ)」。一つひとつ丁寧に進めていけば、存外早く目的地に到達できるものだという経験則を語った、昔からのことわざだと言う。丁寧とはのんびりという意味ではない。「一つ一つ、一かき、一かきに全力を尽くす」のだ。理想主義、綺麗ごとと批判するのはたやすいが、売上高成長率は年20%の数字と「食べログ」の口コミが、著者とフタッフのかいた汗の量を物語っている。
 「幸福」と「経済」、「人」と「仕事」の関係について考えさせる良書である。
『ゆっくり、いそげ ―― カフェからはじめる人を手段化しない経済』(影山知明 著、/大和書房)

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