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命運をわけたリーダーたちの一手

第3回  全社員の声を聞き「男性育休」と「時短勤務」を実現、老舗印刷会社が取り組んだコミュニケーション改革(株式会社木元省美堂)

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ほかの社員のよいところに気がつき、ほめることに価値を置く

ほかの社員のよいところに気がつき、ほめることに価値を置く

個別面談やESアンケートの取り組み以外にも、社内全体のコミュニケーションを活性化するために、2016年から始めたのが「Good Job Card」。例えば、仕事をするうえでほかの社員からサポートを受けたら、感謝の思いを名刺サイズのカードの裏側に書き添えて、相手の社員に手渡す。渡すことができない場合は、相手の社員の机の上に置くことでもよい。所属部署のみならず、他の部署や役員などにカードを渡しても構わない。

カードの裏には、「Good Job!」、「Thank you!」という2つの欄がある。感謝の思いを書くと同時に、どちらの気持ちに近いのかを基準にチェックを入れる。両方の欄につけることも可能だ。その下の欄に相手の氏名と自分の氏名を書き、その下にお礼などのメッセージを添える。内容や文字数に制限はない。カードは部署ごとに色が違い、多くの色のカードを受け取ると、その社員が様々な部署と仕事を通じて関わっていることがわかる仕組みだ。

1年間で渡す枚数は、全社で400枚以上になる。年間や月間での制限は設けていない。受け取った社員はカードを読んだ後、「Good Job Card」用のポストに入れる。社長室の社員が定期的にポスト内のカードを回収し、渡した社員と受け取った社員やエピソードなどを確認し、記録に残したうえで本人に返している。もちろん、カードの内容は、他の社員には非公開だ。

社内ではカードに関連する表彰も創設しており、3ヵ月間ごとに最も多くのカードを渡した社員に「Good Job!」賞を与えている。審査員は社長と役員。新年会では、年間で「最も多く渡した人」や「最も多く受け取った人」、カードに「最も感動的なエピソードを書いた人」を表彰する機会も設けている。2016年から取り組みが活発に行われ、今では全社で渡されたカードは、計1,750枚を超えたそうだ。年間で約400枚以上を全社で贈り合っていることから、1年間に従業員1人あたり約5枚以上のカードを渡していることになり、讃える文化が浸透していることがわかる。

「カードを渡すことができる社員を高く評価したい。ほかの社員のよいところに気がつき、ほめることに会社としては価値を置いている。最近は、上司と部下、配属部署やほかの部署とのコミュニケーションは格段によくなった。Good Job Cardを意識して過ごすことで周囲の人のよい面に気づくようになる。必然的に対面コミュニケーションが生まれる。あまり話したことのない相手でも、ぐっと距離が縮まる」(木元社長)

中小企業は、大企業に比べると、人やお金、モノなどの経営資源が限られるため、打つ手は多くない。その時、どうするか――。大企業のような感覚で大胆な施策を打ち出す場合もあるが、その多くは正しく運用されず形骸化しているように筆者は感じる。すぐに取り組むことができ、長く続けられる試みのほうが現実的ではないだろうか。

今回の事例は、社内のコミュニケーションの活性化に取り組んだものであるが、低コストで高いパフォーマンスが可能な施策と言える。実際に、社内コミュニケーションをテコ入れすることで、業務効率を高め、スムーズな育休復帰や「男性育休」の取得、ESアンケートによる従業員の声から「時短勤務」の実現にもつなげることができた。今回のインタビューを通じて感じたのは、施策を継続させる大事さ。課題や目的を持って地道に「ES調査」や「Good Job Card」といった取り組みを行った結果、社員のモチベーションやチームワークの意識を少しずつ変えられた一つの好事例ではないだろうか。

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プロフィール

ジャーナリスト 吉田 典史

吉田 典史(よしだ のりふみ)
1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。

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