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次世代の経営人材をいかに育てるか(5/5)

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実践と訓練により、仮説検証力を育てる

実践と訓練により、仮説検証力を育てる

新しい事業価値に関して仮説・検証を行えるポジションに人を配置して経験を積ませることで、次世代の経営人材を育てることができます。すでに確立されたビジネスモデルを回す仕事に配置しても、仮説設定・検証能力は磨かれません。そして配置するだけではなく、仮説の設定と検証を実践させ、習慣づけさせることが重要です。そのための発想法は訓練で習得可能です。配置、実践、手法の教育、この組み合わせが大事です。
日本企業にアンケートを取ると、優秀な人材が育っている会社と育っていない会社では、傾向に差があることが分かります。優秀な人材が育つ会社では、社長をはじめ経営者が自ら、土日を割いて人材育成をしています。だから人が育ちます。また、社員自身がキャリアパスや配置の目的について正しく認識できています。育成目的の配置が定着している企業ほど、次の経営者を育てるのに成果が出ています。

とはいえ、育成目的で人を配置するのは簡単ではありません。30代で事業全体をマネジメントするポジションに就けようとしても、年功序列慣行がある企業では容易ではありません。経営人材育成で一番効果があるのが新規事業や海外に異動させることですが、優秀な人材ほど既存の主力事業から離しにくいという事情もあります。しかし従来の専門家の延長線上で動いていても、経営者の育成にはつながりません。企業価値を高めるための仮説を立て、自ら検証するトレーニングを行い、自分の時間の20%は企業の新しい価値を生む試行錯誤に使わせる、という合わせ技が有効です。ベンチャー起業家は100%の時間をそこに注ぎ込んでいますから、せめて20%ぐらいは投入しないと競争に勝てません。

ヘイグループが行う次世代の経営人材育成プログラムでは、企業価値創出につながるテーマを与えて仮説を考えさせ、さらに検証を通じて裏付けとなるエビデンスを取らせます。エビデンスを取るのは難しいです。最初は、仮説をどう検証したらいいのかさえ分かりません。検証可能な仮説が立てられていないと、検証することすらできないのです。仮説が検証可能であるためには、調査や実験がデザインできる必要があります。その能力があれば短時間でエビデンスを取れます。仮説が明確でないと、いくら調査やアンケートに時間をかけてもエビデンスは取れません。
また、仮説を検証すればするほど仮説を立てる能力が高まり、それが経営者としての目利き能力を高めます。企業横断的な交流によるオープンイノベーション型のトレーニングも有効です。情報革命による産業構造の変化、ライフサイクルの変化について、企業横断的なグループを作り、皆で仮説を広げる訓練を行っています。どんな企業と組むことで新しい事業が加速できるのか、仮説を広げるのは難しいですが、企業横断的な集合トレーニングがそれを促進します。

ヘイグループの育成プログラムの標準スケジュールは10か月で、前半は月1回の集合研修で仮説の立案能力を高め、自社の新しい事業価値を見出す能力を育てます。後半は調査、実験を通じた仮説の検証に取り組みます。最先端の実験を行っている人やターゲットとなる潜在的顧客に会いに行き、本当にその仮説がワークするのか確かめます。前半でやる仮説の設定より、後半の検証のほうが学習効果は5倍ほど高いです。

仮説、検証の仕方を理解するため、この育成プログラムではケーススタディーを使ってイメージをつかんでもらいます。米国のカーシェアリングの会社立上げのストーリーを取り上げ、2人のCEOを比較します。創業者である最初のCEOは、情報技術を使った利便性の高いサービスを作り、アーリーアダプターから高い評価を受けました。しかし、会員数は思ったほど増えず、その原因についてCEOは仮説を示せませんでした。そのため取締役会によって解任されてしまいます。その後任として登板したCEOは仮説検証に優れた人でした。前任者のやったことをひとつの実験と見立て、「サービスについて知っているのに会員にならないと決めた人たちを集めてその理由を聞けば、ボトルネックを解明できるだろう」と考えたのです。その結果、最短の時間で「車までの距離が遠いことがネックになっている」ことを突き止めました。さらに、「ターゲットユーザーがたくさん住む地域に車を集中すれば、車までの距離を縮められ、会員数も増やせるのでは」という新たな仮説を立て、それを実験に移しました。カーシェアリングのターゲットは環境に敏感で、お金に余裕がない若者、ITのリテラシーが高い層であり、そうした人が住む地域に車を集中したのです。その結果「5分で行ける距離に車を配置すると会員が急増する」という傾向を発見し、この事業の成功要因を突き止めることに成功します。

次世代の経営人材とは、仮説設定力と検証力を持つ人材です。こうした能力を育てるために、人材を新しい事業領域に配置して実際に業務にあたらせ、市場構造・事業構造・収益構造の新しい可能性を解明させることが重要になります。同時に仮説検証の訓練をさせることで、目利き能力を高めていく必要があります。


〔経営プロサミット2015 6/1講演【次世代の経営人材をいかに育てるか~新しい経営環境の中で企業価値を高められる人材とは~】より〕

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プロフィール

ヘイ コンサルティング グループ<Br>代表取締役社長 高野 研一 氏

ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長 高野 研一 氏

日本の大手銀行でファンドマネジャーなどを経験した後にコンサルタントに転進。現マーサー・ジャパン取締役などを経て、2006年10月にヘイ コンサルティング グループに参画。2007年10月より代表取締役社長に就任。
日本企業の経営改革とグローバル化を支援。特に、コーポレートガバナンス、ビジネスリーダーの育成とアセスメント、グループ経営、組織・人材マネジメントに関する戦略・実行支援などに豊富な経験を持つ。メーカー、金融、商社、小売などほぼ全業種にわたりコンサルティングサービスを提供。多くのクライアントからの信頼を得ている。ヘイグループでは、日本・韓国のマネジメントを担うとともに、ガバナンス・コミッティーのメンバーを務める。
神戸大学経済学部卒業、ロンドン・スクールズ・オブ・エコノミクス(MSc)修了、1992年6月 シカゴ大学ビジネススクール(MBA)修了。
著書 『超ロジカル思考』(日本経済新聞社)、『ビジネスリーダーの強化書』(日本経団連出版)、『勝ちグセで企業は強くなる』『グループ経営時代の人材マネジメント』(ともに東洋経済)他、講演・執筆多数。

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