持続的成長への挑戦

HRサミット・経営プロサミット2015講演レポート。「持続的成長への挑戦」をテーマにデロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー Strategy&Operationsリーダー / 中央大学ビジネススクール大学院戦略研究科 客員教授
松江 英夫 氏による講演の模様をお届けする。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー Strategy&Operationsリーダー
中央大学ビジネススクール大学院戦略研究科 客員教授
松江 英夫 氏
「経営変革」に関わる戦略・組織領域のテーマ(成長戦略、M&A、経営統合、イノベーション、グローバル組織再編)などを多数展開。主な著書に今回の講演をテーマを事例やインタビューとともに掘り下げた新著『自己変革の経営戦略 - 成長を持続させる3つの連鎖』のほか『クロスボーダーM&A成功戦略』『ポストM&A 成功戦略』(ダイヤモンド社)、『経営統合戦略マネジメント』(日本能率協会マネジメントセンター)など。中央大学ビジネススクール大学院戦略研究科 客員教授。事業構想大学院大学 客員教授。

組織改革がうまくいかない理由は断絶にある

持続的に成長できる企業とは、変革し続ける企業のことです。そこでは、平時から自ら変化できるかがポイントになります。

変革がうまくいかないプロジェクトには3つの共通点があります。1つ目は「またか」という失望感です。上が変わるたび、また変革プロジェクトをやるのかというもの。2つ目は、スピード感がないことです。たとえば、変革のため新製品を開発しようとしても、内向きの調整に追われ、出した頃には競合がすでに出してしまっているというようなことが挙げられます。3つ目は「やらされ感」があること。一番分かりやすいのが、上が言うからやるという心理状態に陥ってしまうことです。

変革が頓挫するのは、断絶があるからです。断絶を3つの共通点と紐づけるとまず、「またやるのか」「過去やったのにこの先またやるのか」という過去、現在、未来に向けて「時間軸の断絶」がある、と言えます。また、内向きの根回しに時間がかかっている間に外部と内部との間に「市場の断絶」がおき、外と断絶している間に、改革そのものも内向きとなり、結果的には通用しない製品しかつくれなくなります。やらされ感は、「組織内の断絶」が原因です。上がやるから、隣の組織がやるから、やらざるをえないと強制的に主体性なくやらされています。これらが長年、私がコンサルティングの現場で企業と苦しみながら改革を進めた経験の中で、うまくいかないときの実感値として持っている教訓です。

変革というと、ビフォーアフターが変わる、ドラスティックな構造改革がイメージされやすいです。過去からの決別、というとドラマチックです。しかしこれは一過性の変革であり、外圧、有事で変わるケースがほとんどです。銀行から言われたから、債務超過だからやらざるを得なくて改革します。そのような構造改革を行った企業がそのまま成長しているかというと、必ずしもそうではありません。また、壁にぶつかってもう一度構造改革をやっているということも稀ではありません。一過性の構造改革では持続的成長できないのです。

持続的成長をもたらす変革とは、「劇的な変化はないが、継続的に変化すること」です。平時に、自主的に改革します。過去と決別するというより、過去に学び継続していくというのが持続的な改革であり、それが持続的成長につながります。

長寿企業は長い時間軸で変革を継続している

持続的成長への挑戦
長寿企業のトップとディスカッションを続ける中で私が思うのは、持続する企業は、長期の時間軸を持ち、時代の変化と共に自ら変わり続けられるということです。200年以上の歴史をもつ企業であるデュポンの天羽稔名誉会長は市場の中で生き残る上ことについて「いくら良い製品をつくろうが、新しい市場を開拓しようが、遅かれ早かれ競合が出てきてコピーされていきます。でも組織力は簡単にはコピーできません」と仰っています。競争優位の源泉は組織力にあります。
サッカー日本代表の監督を務めた岡田武史監督は、「進歩よりも前に変化することが大事。たとえ組織は進歩しなくてもいい、だが変化はしないといけない」と言います。強いサッカーチームは、たとえ優秀でも長く留まることなく監督か選手のどちらかを変え続けています。同じチームで長年勝つのは難しく、変化してこそ勝ち続けられます。企業も同じで、変化し続けないといけません。長寿企業は長い時間軸を持ちながらも変化しており、それが持続的な成長をもたらしています。

持続的な企業の共通点には3つのポイントがあります。1つ目は時間軸です。長寿企業は10年という長い時間軸で先を見て経営し、同時に今も見ています。遠くばかり見ていても足元をすくわれるので両方を見なければいけません。2つ目は平時から危機感を持って変われることです。有事において変わるのが一過性の変革ですが、長生きする長寿企業はある意味、日々を有事ととらえており、平時から、自ら気づき変化します。3つ目はその変革を継続できることです。継続するには組織の学習能力が必要です。優れた企業は変革に慣れており、変革の経験を次に生かしています。また、変革経験の多い人材を組織で育成しています。

3つの連鎖と9つの結節点が組織を自己変革させる

持続的成長への挑戦
では、自己変革できる組織になるためにはどうすれば良いのでしょうか。それには3つの連鎖があります。つながることは大事です。断絶により改革が失敗するためです。つながりをどうもたらすかが、組織の持続的な変化で必要なことです。

1つ目の連鎖は過去、現在、未来の「時間軸の連鎖」です。10年先の長い未来と目の前の今を連鎖させます。2つ目は「市場との連鎖」です。平時から変われるためには、外の変化を中にリンクさせ、取り込まないといけません。3つ目は「組織内の連鎖」です。現場と経営、あるいは部門間でどう隔たりを埋めるかを担保して、変革を継続することが持続的な成長につながります。

連鎖を具体的にどうつくるのかについて、事例を交えてお話します。実務的には、結節点といえるものがそれぞれ3つずつあります。1つ目の時間軸の連鎖の結節点として、時間軸を越える上でまず重要なのは、普遍的な価値観を持っていることです。長寿企業に聞くと、理念やコアバリューが価値観を長年継続させるベースの考えとなり、それが価値観のつながりになります。自らの存在意義を定義した理念、経営哲学をいかに維持するかが大事です。2つ目は、リーダーのつながりです。オーナー系の企業で、創業者の三代目がうまくいかないとします。あるいはオーナーが20年、30年経営してもバトンタッチできません。このためには、リーダーが理念を継続させなければいけません。リーダーをどうつなげるかで考えるのが、3つ目の、マネジメントサイクルのつながりです。そこでは、PDCAを経営のどういう時間軸で回すのかを考えます。

2つ目の市場との連鎖で、1つ目の結節点は顧客とのつながりです。自らが相手にするお客さまと持続的な関係を作ります。2つ目は株主、従業員、社会など、ステークホルダーとのつながりです。3つ目は社会に対して出す利益のつながりです。利益のつながりは大事で、利益無くして将来の投資はありません。投資がなければ時間軸を越えられません。利益のつながりは、時間軸、市場の連鎖をつなぐためにも大事な要素です。東京エレクトロンの東社長は利益の捉え方について「利益はお客様が付加価値を認めてくれた『証』である」と語っています。利益は儲けであり、結果としてついてくるもの、とも言われます。しかし利益は顧客の評価の証であるから、利益は最初から目標にすべきものと考えます。

3つ目の組織内の連鎖における結節点の1つ目は意思決定のつながりです。変革するなら組織が一枚岩でないといけません。そのためには、まず上が一枚岩にならねばなりません。伸びている会社は、役員同士、密な関係を持っています。役員がバラバラに派閥争いをしているようだと長続きしません。2つ目は経営と現場のつながりです。3つ目は組織横断のつながりです。縦割りではなく横串にし、一体化してフラットにします。
3つの連鎖、9つの結節点を満たしている会社が、自己変革を可能にするのです。

リーダーシップと風土がなければ変革への仕掛けは動かない

持続的成長への挑戦
連鎖と仕掛けをつくるにあたり、最終的に大事なのはリーダーシップと風土です。仕掛けをつくっても、リーダーシップと風土の素地がないと組織は変わりません。自己変革をもたらすリーダーシップの特徴には3つあります。1つ目は10年先と今を併せ見ること。日本のリーダーが考えるのは、自分の任期の3年間など短い期間であり、10年先まで見ているリーダーは多くありません。グローバルな企業との競争を考える上でこれは欠点です。2つ目は変化のリスクを負ってもブレないことです。保守的なメンタリティではなく、変わりたいというマインドセットを持ちます。
世界的なグローバル企業であるGEの日本社長の熊谷昭彦氏は「変わるための“ 小さな勇気”が大事」と言います。変わるのはリスクがあり、怖いことですが、変わるための“小さな勇気”が湧く環境を整えて、それを出した人を称えることが大事と仰います。リスクを取れるカルチャーのリーダーが持続的な成長には必要なのです。3つ目の特徴は、気付きを与える対話ができることです。日本GEの熊谷社長は「リーダーシップとは人の心を動かすことだ」と言います。短期的にトップダウンで指示を出すのではなく、大きな組織のカルチャーを変化させるためには、対話し、本気で、時間とエネルギーをかけなければいけません。時間はかかりますが一度心が動くと長持ちします。

風土をつくるには5段階あります。1段階目で、共通の価値観を持ちます。2段階目に立場を超えて同じことが言えるようにします。3段階目に暗黙だが当然の行動になるようにします。4段階目に制度や行動ルールとして仕組み作りをします。5段階目はこれらが日常生活のサイクルに織り込まれるようにします。風土は価値観、と言われますが、暗黙の前提が風土の根幹にあります。変われる会社は、変わるべきところが織り込まれ、風土になることで、これが組織の学習能力となり、組織を変える力になります。風土をつくるのは時間がかかりますが、これらを実行すれば、変革できる風土になれます。

このように、自己変革を続ける企業には3つの連鎖の仕組みとリーダーシップ、そして風土があり、それゆえに持続的な成長となるのです。