早稲田大学大学院 入山教授、クレディセゾン 林野氏登壇!HR Success Summit 2018~経営を強くする、人事戦略~(前編)

2018年7月18日、プロフェッショナル人材向けの転職サービス「ビズリーチ」を手がける株式会社ビズリーチ HRMOS採用管理事業部が主催した「HR Success Summit 2018~経営を強くする、人事戦略~」が、東京・六本木のグランドハイアット東京で開催された。経営学の専門家と、経営者である2名の登壇者によって、これからの人事に求められる戦略について「イノベーション」をキーワードとして語られた基調講演の様子をレポートする。
前編では、入山氏による講演内容をお届けする。

2018年7月18日、株式会社ビズリーチ HRMOS採用管理事業部が主催した「HR Success Summit 2018~経営を強くする、人事戦略~」が、東京・六本木のグランドハイアット東京で開催された。経営学の専門家と、経営者である2名の登壇者によって、これからの人事に求められる戦略について「イノベーション」をキーワードとして語られた基調講演の様子をレポートする。
前編では、入山氏による講演内容をお届けする。

基調講演1:社員に「知の探求」を促す イノベーション戦略人事とは

最初に登壇したのは、早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)准教授であり、著書にベストセラー『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある入山章栄氏。入山氏は、現在の日本企業改革における最大の課題「人材戦略」について、世界標準の経営学の知見を用いながら解説した。

まず、今の日本に最も足りないものは人事の「戦略化」であると指摘。近年、戦略と人事を一体として捉える機運は少しずつ高まっているが、入山氏はさらにそこへ「イノベーション」というキーワードを紐付けた。グローバル化が進み、新技術が次々と登場する激動の時代に生き残るには、イノベーションが不可欠だ。しかし日本企業はイノベーションが生まれにくい傾向がある。

「イノベーションの最大の鍵は人事。これからは『戦略人事』というよりも、『イノベーション戦略人事』が重要になる」(入山氏)

なぜ日本企業でイノベーションが生まれないのか。入山氏は、経済学者シュンペーターの言葉を引用し、イノベーションを生み出す本質は「知と知の組み合わせ」だと述べる。つまりイノベーションとは、ゼロから何かを生み出すことではなく、既存の知の新たな組み合わせを見つけることであると。しかし厄介なことに、人間は認知力に限界があるので、すでに見えている知だけを組み合わせがちな傾向があるという。

このため日本企業では、何十年も同じ業界で事業展開していたり、同質人材を採用し続けたりするなど、「知と知の組み合わせ」が出尽くしており、イノベーションが生まれない状況となっているのだ。

「この状態を脱却するには、『知の探索』(Exploration)が不可欠だ。知の探求とは、新しい知を、なるべく遠い場所で幅広く探すこと。例えば、トヨタ生産方式はアメリカのスーパーマーケットの商品管理方法を応用しているし、TSUTAYAのCDレンタル事業は、消費者金融の事業モデルをヒントにして成功を確信したとのこと。いずれも自社の事業とはかけ離れた所から新たな知見を得ている」(入山氏)

このような知の探求と対照的な行動が、組み合わせた知を深めていく「知の深化」だ。深めることで、収益化していくのだ。このように、企業に求められるのは、「知の探求」と「知の深化」をバランスよく行う「両効きの経営」(Ambidexteriy)だという。
早稲田大学大学院 入山教授、クレディセゾン 林野氏登壇!HR Success Summit 2018~経営を強くする、人事戦略~(前編)
しかし入山氏は「日本の企業経営は『知の深化』に偏りがち」と指摘する。なぜならば、「知の深化」は、費用対効果や成功の可能性を疑問視されやすい「知の探索」と比べてリスクを負わないうえ、短期的には利益もたらすからだ。とはいえ「知の深化」だけに偏り、「知の探索」をおろそかにすると、やがては知と知の新しい組みわせが尽きて、中長期的なイノベーションが停滞する「コンピテンシー・トラップ」という状態に陥ってしまう。

では「知の探索」を活性化するために、人事はどのような戦略をとればいいのか。入山氏によれば、たとえば次の3点が重要だという。

1.失敗を受け入れる制度
2.組織ダイバーシティ
3.イントラパーソナル・ダイバーシティ

1.失敗を受け入れる制度
入山氏は「『知の探索』には失敗がつきものだ」と強調する。あのスティーブ・ジョブズにすら数々の失敗作があり、空前のヒット製品となったiPhone等は、彼の膨大な「知の探索」の成果のほんの一部でしかないことを紹介した。

失敗を容認できない日本企業によくあるのが、社員が人事評価を恐れているパターンだという。「成功or失敗」という紋切り型の評価方法では、失敗すると人事評価が下がる。その結果、社員が知の探求をできなくなるのだ。このような場合、評価制度の在り方を見直す必要がある。

2.組織ダイバーシティ
組織で「知の探索」を促す最もシンプルな方法は、多様な経験を持つ人材を迎えることだという。多様な考えを持ち人が集まれば、知と知の新しい組み合わせが起きる。ダイバーシティ経営は、イノベーションにつながるという点で、経営学的には非常に正しい方法だ。

しかし、日本企業の中にはダイバーシティが目的化してしまい、「女性管理職率30%」といった数値目標ばかりに気をとられているケースが少なくないという。入山氏は、あくまでもダイバーシティは、イノベーションを生み出す「手段」であることを強調した。

3.イントラパーソナル・ダイバーシティ
組織ダイバーシティに対し、イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)とは、個人が多様な知見や経験を持つ状態を指す。つまり、個人の中で離れた知と知の組み合わせが生まれるのだ。ここ10年ほどの世界の経営学界において、著しく注目を集めているトピックだという。

イントラパーソナル・ダイバーシティでイノベーションを生んだ人物として、VR用ヘッドマウントディスプレーに新技術を搭載した、FOVEの小島由香CEOが紹介された。彼女は元漫画家という顔を持ち、漫画やアニメが大好きで、その世界観を実現したいという思いが、目線の動きだけで仮想空間を操作できる世界初の技術を開発する快挙につながったという。

こうした多様な知見や経験を有する人材を育てる方法として、今注目されているのが、働き方改革への取り組みだ。社員の副業を認める、週休3日制の導入、大手企業からスタートアップ企業への人材派遣といった取り組みは、いずれも社外で「知の探索」の機会を作り、新たな知見を本業に持ち帰ることを目的としている。

「ダイバーシティの他にも、中途採用、エリート抜擢主義といったグローバル企業の人材戦略は、すべて『知の探索』のためにある。しかし日本企業ではいまだに、同質人材の採用、新卒一括採用と終身雇用、平等主義などが根強い。日本企業は少しでもグローバル企業の戦略を取り入れ、イノベーションにつなげてほしい」(入山氏)