MASHING UPセッションレポート(後)「大企業をやめるわけ、やめないわけ」

2018年2月22日~23日、TRUNK(HOTEL)(東京都渋谷区)にて、株式会社メディアジーン主催のビジネスカンファレンス「MASHING UP」が開催された。異なる性別や年齢、国籍、業種などを混ぜ合わせる(mash upする)ことで、働き方やビジネスにつながる化学反応を起こすことを目的としたイベントだ。同イベントでは、働き方のダイバーシティに関するセッションも複数開催された。今回はそのなかから、「進化し続けるリモートワークの可能性」および「大企業をやめるわけ、やめないわけ」の2セッションについてレポートする。

「大企業をやめるわけ、やめないわけ To Leave, or Not to Leave-the Establishment, Stability, and Change」

本セッション登壇者は以下の3名。

・奥田 浩美 氏(モデレーター):株式会社ウィズグループ 代表取締役
・和田 幸子 氏:株式会社タスカジ 代表取締役社長
・佐々木 大輔 氏:freee株式会社 創業者・代表取締役CEO

セッションは、参加者の9割が企業に勤務しているということを踏まえて進められ、まず、登壇者それぞれから、自分の人生の転換期について、グラフを使って説明がなされた。

和田氏は、サラリーマンの父親と専業主婦の母親のもとに生まれ、「安定しているサラリーマンは素晴らしい」という価値観で育ったとのこと。就職してからは、富士通でSEとして働くも、30代後半でエネルギーを持て余すような感覚があり、それが起業のきっかけになったという。

佐々木氏は、生活環境が急激に変化するときや新しいことへ挑戦しているときが、グラフが上向きになっていると述べた。佐々木氏のグラフは、中学校の終わりのころに周りと比較するのをやめ、「人と違うことをやろう」と思ったときからスタートする。大学時代はデータサイエンスが好きで、データ分析の仕事をするために、ベンチャー企業で8をしていた佐々木氏。卒業してからもベンチャー企業で働きたいと思っていたが、周囲の勧めもあって、大手広告代理店へ就職。しかし、大企業の「下っ端」となり、ある程度責任の重い仕事を任されているにも関わらず、社内でないがしろにされた経験をし、とても悔しかったという。その後、佐々木氏は、投資ファンド勤務やベンチャー企業CFOを経て、グーグルへ入社。グーグルも最初の広告代理店と同様の大企業ではあったが、両者の違いは、掲げているミッションに自分が共感できるかどうか、だったという。グーグルでは、中小企業向けのマーケティングを担当し、初めて「自分の仕事が世の中に貢献している」「自分が存在していることで世の中がよくなった」という感覚を得られたとのこと。そして次第に、自分が成長することよりも、社会へのインパクトを重視するようになり、起業に至ったと述べた。
MASHING UPセッションレポート(後)「大企業をやめるわけ、やめないわけ」
次に、登壇者それぞれの起業のきっかけについて議論された。

和田氏は、起業のきっかけはひとつではなく、自分に起こったすべての物事が起業を推進する方向に動いてきた、と語った。そのなかでも核となったのが、自らが共働きで家事の担い手不足という問題に直面した時、インターネットで個人契約したハウスキーパーを利用することで、生活が改善し、感激した経験だ。そうしたハウスキーパーを誰もが使えるようにしたいと思う反面、現状の仕組みでは難しいことに気づき、起業のテーマを思いついたという。また過去に一度、企業派遣留学制度でMBAスクールに通ったときに、同級生と起業したが、うまくいかなかったという経験もあった。そのときから約15年間、起業への想いを温め続けていたという。

佐々木氏は、中小企業にテクノロジーを普及させる仕事をしてきたなか、やがて、世界と比べてもテクノロジーの活用度合いが遅れている日本の現状を、「自分の手で」直接解決したいと思うようになってきたという。あるとき、経理担当が一日中入力作業に追われていることを見かねた佐々木氏は、新しいタイプの会計ソフトを作って、企業の裏側を、クラウドを使って自動化してみたい、と思いつく。このアイディアが生まれたのが12月で、起業したのは翌年7月。会計ソフトをテーマとすることについては、周りに止められたそうだが、その参入障壁こそ、逆にチャンスだと佐々木氏は考えた。このように企業に所属していてはできない選択を行えるのは、起業の醍醐味だと同氏は付け加えた。
MASHING UPセッションレポート(後)「大企業をやめるわけ、やめないわけ」
3つ目に、起業したいと思った際、どのような一歩を踏み出したかについて議論された。

和田氏が最初にやったことは、不安の洗い出しとその解決。当時、誰に相談しても会社を辞めることを反対されたなかで、一度落ち着いて、自分の心配しているリスクについて考えたという。その際、借金のリスクは無借金経営で起業すればいいし、収入がなくて生活できないかもしれないというリスクについては、独身時代の貯金や、夫を説得して巻き込むことで解決できると分かった。すると実質のリスクはひとつもなく、ここで経験を積めるなら、たとえ失敗したとしても次につながるだろうと思い、起業を決意したと語った。

佐々木氏は、自らが考えた会計ソフトを、自らの手で作るため、まずはプログラミングを勉強した。また同氏は、もし起業するのなら、そのタイミングを見極めることが重要だと主張。当時、佐々木氏は、経理の自動化以外に、クラウドソーシングをやろうとも考えていたが、こちらは他社に先を越されてしまったとのこと。その経験から、思ったことは早くからやったほうがいい、ということを痛感したそうだ。
4つ目に、登壇者それぞれが、いくつかの仕事を経験したことによって得たものについて議論された。

佐々木氏は、自分の成長が止まっていると感じると、新しいものを吸収するために転職を繰り返してきたタイプ。しかし振り返ってみると、現在やっている仕事は、これまで経験したすべての仕事の掛け合わせだという。さまざまなことを経験したからこそ、独自の問題意識を持つことができ、同時にその問題を解決するスキルも知らずと身につけていたそうだ。

和田氏の場合は転職を重ねるのでなく、ひとつの会社にいながらにして、SEをはじめWEBマーケティングやサポート、新規事業担当など、さまざまな職種を経験してきた。和田氏は、企業経営に必要な一通りの仕事をやってきて、その経験が現在、ひとつ残らず生きていると述べた。自分の強みを掛け算で考えたとき、「経営・事業の知識」×「ITに精通している」×「共働き家庭の家事に問題意識を持っている」という属性を持つ人は、日本を見渡しても自分しかいないと自信を持ち、それが後押しとなって起業への一歩を踏み出せたと述べた。

これに関連してモデレーターの奥田氏は、「得られるものがないから会社を辞めたい」という若者に対し、「社内において積極的に能力を開発し自らを成長させ、もうそれ以上新たな能力を求められることもなく、企業も成長しない状態になったら、仕事をやめればいい」と助言していると述べた。
MASHING UPセッションレポート(後)「大企業をやめるわけ、やめないわけ」
MASHING UPセッションレポート(後)「大企業をやめるわけ、やめないわけ」
最後に、実際に起業してみてどうだったかについて議論された。

和田氏は、起業することに飽きないよう、目的を設定したという。1つ目は、常に自分自身を成長し続けられる状態に置くこと、2つ目は、世の中の役に立つことをすること、3つ目は、それらによって金銭的リターンを得られるようにすること。現在自分はこの3つがバランスよくすべて獲得できているため、日々の満足度は高いと述べた。そして参加者へ向け、自分にとって一番大切なものは何かを洗い出し、それを実現できる環境を作り続けることが大切だと、メッセージを送った。

佐々木氏は、かつてインターネット広告やモバイルなどの新しいものにいち早く飛びついて賭けてみようと思わなかったタイプだったことを、今、とても反省していると述べた。これまで困難だったことも、どんどん新しい技術が生まれ、実現しているのが現状。今では同氏は、「世の中は確実に前に進んでいくものだし、予見されているようなトレンドは必ず起こる」と考えるようにしているそう。斜に構えることなく、世の中の大きな流れに乗っていくのが重要だ、と主張した。

奥田氏はこれらのメッセージに対し、時代の価値観が変わっていくなかで、自分がどのような立場で、どう社会にインパクトを与えていくかが、このセッションの根底にあったテーマだと述べた。個人が組織に合わせる時代は終わり、組織は個人から一部をもらって形作られる時代になっている、というのが、奥田氏の考え。したがって、起業をする・しない、会社を辞める・辞めないという観点より、自分はどういった形で、どう組織や社会に託するか、というイメージを持って生きていくべきだとして、本セッションを締めくくった。

起業することは、あくまでも多様性ある働き方のうちのひとつ。起業や会社を辞めることが目的なのではなく、自分の置かれている立場から社会に向けていかにインパクトを与えられるかが重要である、という点に、参加者皆が共感させられたセッションだった。


いずれのセッションも、働き方の多様化は目的ではなく、手段であるという結論に至ったのが非常に印象的だった。企業の人事や経営者層においては、組織におけるダイバーシティをただ号令だけかけて実現させようとするのではなく、どのような組織にしたいかというビジョンをしっかりと描いたうえで、多様な働き方を推進していく必要があるだろう。