経営・ビジネスの課題解決メディア「経営プロ」

イベント・講演録

クオリティフォーラム2017 企画セッション「新たな全員参加型経営: ビジョンがもたらす事業の構想と実装」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ICT建機だけではイノベーションを起こせなかった

ICT建機だけではイノベーションを起こせなかった

コマツグループがスマートコンストラクション事業を立ち上げた背景には、建設業界の深刻な人手不足がある。小野寺氏は、建設技能労働者数は減少傾向にあり、2025年には約130万人の需給ギャップが生じるという予測があると指摘。これを解決する最も現実的な方法は、一人当たりの生産性を1.5倍に上げることだが、国内の建設会社のほとんどが零細企業という現状では、1社ごとに設備投資をして生産性を上げることは難しいとした。そこで技術を持っている、あるいは調達できる同グループが、イノベーションを起こす必要があると考えたのだという。

そんな時、同グループは世界初のICTブルドーザーを市場投入した。従来のブルドーザーはブレードを動かす技術の難易度が高かったが、ICTブルドーザーならブレードはデータ通りに動くため、オペレーターは前進・後進を操作するだけ。非常にエポックメイキングな建機だった。

しかし、予想に反して導入現場の生産性は向上しなかった。ICTブルドーザーで土を盛る前には土を掘る・積む、運ぶといった工程があるが、盛る工程が効率化するとダンプトラックの手配が追いつかなくなり、ダンプトラックの処理能力がボトルネックとなってしまったのだ。課題に直面した当時について、小野寺氏は「我々のビジョン(目的)はICTブルドーザーを売ることではなく、現場全体の生産性を上げること。悩んだ末に、ビジョンが達成されていないなら、工事全体に関与しようと決めた」と振り返った。

このような課題の発見とスマートコンストラクション構想の誕生には、問題点をあぶり出すために社員が現場に張り付き、丁寧な観察を続けたことが大きな影響を与えている。小野寺氏は「お客様の声に耳を傾けるとかニーズを聞くというレベルではなく、完全に現場に立って、お客様の代わりに現場を見た」と強調した。

スマートコンストラクション誕生の土壌を作ったブランドマネジメント活動

コマツグループがスマートコンストラクション事業を生み出すに至ったのは、2007年から全社的かつグローバルに展開していたブランドマネジメント活動(BM活動)という土壌があったことが大きい。同グループはBM活動について「お客様にとって、コマツグループでなくてはならない度合いを高め、パートナーとして選ばれ続ける存在となる」ための活動と位置付けていた。

BM活動で目指す顧客との関係については、「レベル7:コマツは自社になくてはならない」から「1:付き合うに値しない」までの顧客関係性7段階モデルを設定し、まずは「レベル4:コマツを買って(レンタルして)良かった」を目指した。レベル向上のために用いたのが顧客関係性相関チャートだ。BM活動は、自社の理想状態ではなく「お客様自身の理想状態」を定め、それに対する自社の実現根拠を組み立てていく。2014年には、コマツレンタルが実際の顧客と共に数時間の議論を行ってチャートを作り上げた。当時の議論について、小野寺氏は次のように述べた。

「お客様に理想状態を尋ねると、最初は『地域ナンバーワンになりたい』といった言葉が出てきた。しかし、さらに掘り下げて聞くと『若手や女性がいきいきと働いている、安全でスマートで未来感のある土木施工を行う会社になりたい』というビジョンに辿り着いた」

チャート作成で明らかになった顧客の理想状態に対し、同社は、ICTや新技術を活用した施工工程全体の効率化を実現根拠に挙げ、共創テーマを掲げて実際に顧客と一緒に取り組むことになった。

小野寺氏は、共創テーマを定める際は、目的をDoニーズで定義することが大切だと強調した。仮に「こんなシステムが欲しい」といったHaveニーズを目的としてしまうと、システムの完成をもって終了となってしまい、顧客の理想状態を達成できなくなってしまうからだ。Haveニーズは手段にすぎない。Doニーズによる目的の定義を行うと、スマートコンストラクション事業自体も再定義され、「建設生産プロセスの全行程を三次元でつなぎ、工事前の地形から完成地形までを、最短で、最小人員で、安全に、正確に変化させる」ことが可能となった。同グループが従来提供していた建機はアプリケーションの一つにすぎず、顧客にとっては、施工全体を三次元でつなげるプラットフォームが重要であることが明らかになった。
スマートコンストラクション事業の構想と実装

スマートコンストラクション事業の構想と実装

2016年、コマツレンタルは、30〜40代を中心とする組織横断的なワーキングチームを立ち上げ、スマートコンストラクション事業の構想と実装に着手した。ただし、構想の部分はすでに出来上がっていたため、構想のテーマは3年後の事業とした。策定プロセスは以下の通り。

<構想期>
1.事業ドメインの再定義:当事業は顧客の何の実現にコミットするのか
2.マネタイズ・シナリオ:1の実現により、当事業が得られる対価はいかに膨らむのか
3.Doリストアップ:顧客のDoニーズと、自社が備えるべきDoをリストアップ

<実装期>
4.サービス・デリバリ・プロセス:一連の過程はどのようなDo連鎖で表されるか
5.部門間連携の見える化:各部門はどのタイミングで何をするのか
6.業務分掌:各部門は何をやるのか、何を業務として担うのか
7.職務分掌と人材評価:いま各人は何をやれているか、今後何をやれるようになるべきか

構想期のなかでも事業の戦略的ポジショニングに相当する重要な「事業ドメインの再定義」について、同社は「顧客の中長期的展望に立った利益の計画と獲得の実現にコミットすることによって、なくてはならない存在になる」とした。小野寺氏は構想期を振り返り、議論を通じて、現在提供しているスマートコンストラクションの本質や目的が、メンバーに腹落ちしたことが最大の成果だったと述べた。

実装期は、現状のスマートコンストラクションの提供プロセスを整理し、業務の生産性向上にむけた議論を実施。従来の営業担当者、現場のサポート担当、ドローンのオペレーター等を新たに「スマコンコンサルタント」として、提供プロセスの各段階に配置したうえで、クリティカルパスを見極めた。スマコンコンサルタントのクオリティ管理にも着手し、「未熟なレベル」「標準レベル」「目指すべきレベル」について、それぞれ指標を策定。現在は頻繁にテストやロールプレイングなどを実施しながら、各人を5段階レベルに振り分け、レベル向上に役立てている。全員が目指す標準レベル(レベル3)には、施工管理の基礎的な能力、図面から三次元をイメージできる力、工程表を読み解ける力が求められるが、これらは通常の建機レンタル会社の社員に必要な能力を超えており、建設会社の現場監督に要求される能力に相当するという。

小野寺氏は、同事業の開発にあたり、BM活動の手法が活かされた点について、次のようにまとめた。

●顧客に共感し、顧客視点でビジョンと取り組むテーマを定めた
●短期間で試作を作り、実際の現場で顧客と一緒にテストを続けた
●その現場を顧客と一緒に観察し、顧客の問題を解決した
●顧客ニーズを実現するために、社外の技術を積極的に探した

加えて、経営トップ層が毎月開催するステアリングコミッティの存在によって素早い意思決定がなされた点も、ビジョン実現における重要な要素だったと締めくくった。

お気に入りに登録

プロフィール

 経営プロ編集部

経営プロ編集部

経営者・事業部門責任者から部長・課長・リーダー層まで、経営の根幹を支える人たちの成長を支援するパートナーメディアを目指します。日々の業務に役立つニュースや小ネタ、組織強化や経営理論まで幅広く学べる記事を提供します。

関連記事

会員登録 / ログイン

会員登録すると会員限定機能や各種特典がご利用いただけます。 新規会員登録

会員ログインの方はこちら