第6回:社内で研修講師を選定する際に必要なポイントとは

研修会社に依頼する、外部から専門家を招いて講演してもらう、ということだけが「研修」ではない。もちろん、外部講師にしかできない内容や、社内の事情から外部講師が行なった方がふさわしいであろう「研修」はある。しかし、「自社にもっともマッチした研修」を作り出すためには、社内講師が相応しい研修も多々あるのだ。今回は、社内で講師を選定する際、どのようなことを基準にすればよいのか見ていきたい。

講師選定の基準は「尊敬されている人」

社内講師を選定する際に、外部講師よりも難しいのは、「受講者が講師の仕事の力量を知っている場合が多い」という点である。社内講師が登場した瞬間、受講者に「この人ならいい話を聞けるに違いない」という期待が生まれれば、受講意欲も湧いてくる。しかし「この人が講師か……」と失望を抱いてしまうと、その時点でもう「適当に聞き流しておこう」というマインドになってしまう。

もちろん、受講者の判断が必ずしも正しいわけではない。中途入社で社内ではあまり知られていないが、「よいコンテンツをもっている人材」が社内講師として選ばれることもあるだろう。しかし、社内講師が話す良い内容も、受講者の意欲が低くては、活かすことができない。

つまり、講師には「仕事上で優秀な成績を残しており、社内での信頼が厚く、尊敬されている人」を選ぶ必要があるのだ。それならば、「研修開発担当者が選定するよりも、現場のマネージャーに任せた場合が良い」と考えるかもしれない。だが現場からすれば、社内研修の講師という「コストパフォーマンスが悪い仕事」にエース級を持っていかれると困る、という思惑が働く。そうすると、2番手、3番手の人材を推薦してくる可能性が高くなるだろう。

そうならないためには、研修開発担当者が、社内各分野の「キーパーソン」を把握しておく必要がある。「現場のことはよくわからない」と匙を投げるのではなく、次のような人材がいたら講師としてターゲットにしたい。

・高い成果を上げ、社外で講演を依頼されている人
・同僚や若手を集めて勉強会を主催している人


「うちみたいな小さい会社にはそんな人材はいない」と思うかもしれないが、はたして社内でどのような勉強会が開かれているか、研修開発担当者はすべてを「把握」しているだろうか。まずは、地道に現場から情報を収集しておく必要があると思っておいてほしい。

講師に投資し、サポートすることが重要

講師にふさわしい「尊敬されている人」が見つかっても、簡単にOKが貰えるとは限らない。「私にはとても無理です」という謙遜の言葉とともに、体よく断られるものだと最初から覚悟しておこう。

それでは、どのように講師候補者を説得したらよいのだろうか。それは、人事・総務等の研修開発部門が、部をあげてサポートすると「約束」することである。特に、これまで人前で話す機会があまりなかった人は、「話すべき内容」を持っていても、「話のしかた」については自信がないことがほとんどだ。「人前で話す」という事自体に、苦手意識を持っていることもありえる。また候補者本人の認識とはまた別に、業務経験があり、知識・技術が優れていても、それを「相手にわかるように」教えるスキルを、なんの訓練も受けずに持っている人は「まずいない」と思ったほうがよい。

つまり、選定した講師(候補者)が「受講者に内容を伝える力」を身につけるためのお膳立てを、研修開発部門で行なう必要があるのだ。外部のプレゼンテーション講座などを受講させるというのも、ひとつの手段として考えられるだろう。さらに、社内で小規模な勉強会を何度か開催し、そこで行なったレクチャーを録画して、後ほどそれを見ながらフィードバックを行なうのも、「伝える力」を磨くのには効果的だ。

研修を内製化し、社内講師を育成することについて、「コスト削減」という文脈で語られることがある。しかし、実際は前述のように、講師として選ばれた人に対し、社外セミナーを受講させるなどの「投資」が必要である。さらに、もっと大きな投資となるのは、エース級人材の時間と能力を、社内教育に振り向けることだ。また、もちろん研修開発部門にとっても、講師育成のためのプログラムを作らなくてはならないので、外部講師を頼むときとは段違いの労力がかかるだろう。

だがその労力の反面、得られたノウハウは社内に残り、次に伝えることができる大きな財産となる。講師候補者には、そのような「価値」をアピールし、「社内で教え合う良き風土を作るためにも、ぜひ登壇してほしい」と説得しよう。



李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org