組織が重んじ求めるもの:成果とプロセス

近年、日本企業が協業、買収、合併などを通して欧米の企業経営手法に接する機会が増えている。また、日本企業が外国人を雇用することも以前に比べて格段に増加した。これにより、文化基盤の異なる個人同士あるいは組織同士が共に働く必要性が高まってきた。

近年、日本企業が協業、買収、合併などを通して欧米の企業経営手法に接する機会が増えている。また、日本企業が外国人を雇用することも以前に比べて格段に増加した。これにより、文化基盤の異なる個人同士あるいは組織同士が共に働く必要性が高まってきた。

協業相手として中国をはじめとするアジア諸国の比重が大きくなっているが、これらの国の企業も、経営手法を欧米、特にアメリカの企業から取り入れていることが多い。その意味で、欧米的経営手法がひとつのグローバル・スタンダードとして機能している。

一方、日本で欧米の企業文化が十分に理解されているかというと、必ずしもそうとは言えない。例えば、「欧米企業は個人主義的でチームワークに欠ける」という認識は、あくまでも出発点だ。協業を成功させるには、そこからさらに一歩踏み込み、お互いのチームワークのあり方の違いを深く理解し合うことが欠かせない。

もちろん、日本企業の組織文化は会社によってさまざまである。また、ひとつの会社の中でも、部署によって、あるいは場所によって、文化や風土が異なることが多い。この点は欧米企業でも同じである。日本と欧米の企業文化を比較することは、紋切り型の理解に陥る危険があることを重々注意しつつ、全体像を提示することを試みたい。

本コラムは、こうした認識に立ち、3回にわたって、欧米企業の文化的特徴を日本企業と比較しながら考察し、組織としての価値観や、行動様式の違いを認識し、円滑な協業の助けとなることを意図している。

初回は、「組織が重んじ、求めるもの」について考えてみる。言い換えれば、組織の構成員が行動するとき、何を大切にするか、何を欠かせないものと考えるか、ということである。

欧米企業が重んじるものは、何よりも「成果」だ。欧米では、パフォーマンスあるいはアチーブメントという言葉が鍵であり、どれだけパフォーマンスをあげたか、どういうアチーブメントがあったか、を常に重視する。ここには、成果は目に見える形で把握したり計測したりできる、という前提があり、そのためにはあらかじめ目標値を設定することが必要だという認識がある。このような「成果重視」の風土では、「目標設定と結果を照らし合わせて評価する」ことが根本となっている。

一方で、日本企業で成果といえば、売上高のように把握しやすくて分かりやすいものに加え、形にならないもの、数値化するのが難しいものに目を向けようとする。営業社員一人ひとりに売上目標を設定することは当たり前に行われているが、日本企業の場合には、例えば、売上何千万円という目標と合わせて、「既存顧客を月1回以上訪問する」というような項目を定量的目標として設定することが多い。さらには、「顧客と良好な関係を築き、維持する」というような定性的目標が含まれる。

これは日本企業に限らず、欧米企業の日本法人でも同様である。筆者自身、日本で外資系企業の人事部門に勤務し、年度初めの目標が定量的項目と定性的項目の両方で構成されるのを数多く見てきた。しかし欧米企業では、「顧客訪問回数」や「関係構築」のような目標は、「それはただの行動だ」、「結果にコミットしてない」として問題になることが多い。

なぜ日本ではこうなるかというと、日本企業では「プロセス」が重要視されるからである。もちろん日本企業でも成果を重視するが、例えば、売上目標を達成するためには、まず、そこに至る道のりとしての日頃の営業活動がきちんとしていることが大切で、正しいプロセスがなければ良い成果にはつながらない、という考え方が強い。これはプロセスを組織全体で合意し、共有することにつながっている。

欧米企業の営業担当者であれば、売上目標を達成するための行動は、その大部分を個人に任されるので、日頃の活動が目標項目に入る余地は、日本企業に比べてずっと小さい。欧米のこうしたやり方を見ると日本人は「あまりに野放しだ」、「数字だけ達成すれば良いのか」と感じるが、欧米企業にとっては、これこそが「成果で評価している」ということなのである。このことは、成果があがらなければ処遇と雇用に直結する風土や法制度にも浅からず関連している。

組織としての意思決定でも、「プロセス重視」は日本企業の大きな特色である。日本企業における、根回しや稟議書のような習慣と制度は、提案事項が社内の利害関係者に周知され、意見を取り入れるといった、しかるべき経路をたどって承認されることを重んじる文化に立脚している。ある日本の大企業では、稟議書をシステム化し、電子回覧および電子承認を実現した。このことは稟議書がこの会社においていかに大切かということを物語っている。

片や欧米企業の意思決定は、しかるべき承認権者ひとりが了解することによってなされることが多く、順序を追って承認を一つひとつ得てゆく稟議書を必要としない。筆者が勤務していた会社では、インターネットが存在する前からすでに、社内のコンピューターネットワーク上で電子メールに近いメッセージをやり取りするシステムを世界中で構築していた。部下からの提案メッセージに上司が「承認する」と返事をすれば、それが正式な意思決定だった。

これは欧米企業が、意思決定と行動のスピードを重んじることの表れでもある。欧米企業には「スピード」=「仕事の質」であるという考え方が浸透しており、ゆっくり時間をかけて合意形成することはほとんど価値を持たない。当然、欧米企業でも、何らかの承認を得る際、利害関係者は複数いるが、議論して納得してもらう(「buy-in」を得るという言葉をよく使う)ことで、承認ルートにその人たちを入れなくても問題が生じることはない。

――以上のように今回は、「成果重視」と「プロセス重視」という観点から欧米企業と日本企業の違いを見てきた。次回は、「組織が何に立脚して意思決定するか」という点から見た日本企業と欧米企業の違いについて考える。