文化ギャップによる障害とその克服

前回のこのコラムでは、エリン・メイヤーの著書「カルチャー・マップ」で異なる文化間の差異を把握する枠組みとして提唱されている、以下の8つの軸を紹介した。

前回のこのコラムでは、エリン・メイヤーの著書「カルチャー・マップ」で異なる文化間の差異を把握する枠組みとして提唱されている、以下の8つの軸を紹介した。

□コミュニケーション:ローコンテクストか、ハイコンテクストか
□評価:ネガティブなフィードバックをはっきり伝えるか、遠回しに伝えるか
□説得:論理展開や説得に際して原理原則から出発するか、実地への応用から出発するか
□リーダーシップ:リーダーのあり方が平等主義的か、ヒエラルキー的か
□意思決定:物事の決定が合意に基づくか、トップダウンか
□信頼:信頼関係をタスクによって築くか、人間関係によって築くか
□意見の不一致:意見対立をいとわないか、避けるか
□スケジュール:時間を直線的(予定がその通りの順序とタイミングで実現することを目指す)にとらえるか、柔軟にとらえるか

メイヤーはビジネスに重点を置いて「カルチャー・マップ」を書いているので、この8つの軸は仕事における異文化接触の上でどれも重要なものだが、「リーダーシップ」「意思決定」「スケジュール」の3つは特に影響が大きく、障害のもととなる。

リーダーとチームメンバーが考えるリーダー像やリーダーシップ・スタイルが、おのおのの文化的背景に影響されて異なる場合には、メンバー側にとってリーダーが強権的に見えたり、あるいは逆にリーダーらしくなくて自分から何も決めようとしないと思われたりする。リーダー側にとっては、メンバーが自分を尊重しない、あるいは逆に何でも自分に決定を求めてくるという不満が募ることもありうる。

意思決定についても、合意形成を大切にする文化のあり方を、トップダウン的意思決定に慣れた目から見ると、誰が物事を決めるのかはっきりせず時間ばかりかかるように映るし、逆に、トップダウン的意思決定を重んじる文化を、合意形成を尊重する目から見ると、一人ひとりの意見を大切にせず強引だということになる。

また、直線的スケジュールの文化から見ると、柔軟なスケジュールはいい加減で期限や納期を守らないと思われるが、柔軟なスケジュールの文化から直線的スケジュールを見ると、現状を無視した硬直的で締め切りのことばかりを考えている態度だと受け取られる。

そして、8つの中で最も重要なのは「コミュニケーション」の軸だと言える。「リーダーシップ」も「意思決定」も「スケジュール」も、さらに他の4つの軸も、それをどう伝えるか(あるいはどう伝わるか)がビジネスへの影響を大きく左右する。その意味で「コミュニケーション」は、異文化接触の要、あるいは土台である。従ってビジネスの場での異文化接触を、建設的で実りあるものにし、障害を解消、あるいは予防するためには、コミュニケーションに焦点を当てるのが効果的であろう。

具体的には、まず関係者がお互いに、自分たちの文化的特質と相手の文化との違いを理解することから始める必要がある。全員が集まって「カルチャー・マップ」の8つの軸の上で、おのおのの文化がどこに位置するかを記入してみるとよいだろう。この際、参加者には以下の3点において注意を促す必要がある。

-文化間の優劣ではなく、差異を議論すること
-他の文化との比較を通して、自分の寄って立つ文化の特質も把握すること
-おのおのの文化の軸上の絶対的位置よりも、どの文化が「より左側」にあり、どの文化が「より右側」にあるかという相対的位置に注目すること

この「認識化」のプロセスは、文化間の差異を言語で表現するので、言葉に明確に表して伝えることを重んじる「ローコンテクスト文化」のコミュニケーションの側に、全員が歩み寄ることを意味する。言葉にならない暗黙の了解や表情などを重視する「ハイコンテクスト文化」に属するメンバーにとっては居心地が悪いが、ハイコンテクスト文化側に合わせることができないので、やむをえない。また、中国人と日本人のように双方がハイコンテクスト文化の場合も、前提としている背景が異なるので、言葉に出して理解することが必要になる。

続いて「認識化」を「行動化」につなげる。ここでは、「グラウンド・ルール」を決めることが有効である。たとえば、「会議の冒頭で前回のアクション・アイテムを振り返り、会議の最後に決定事項とアクション・アイテムを確認する時間を設ける」「会議後に議事録と次回までのアクション・アイテムを全員に送る」などを全員が合意し、それをチームの約束とする。文化間の差異が認識され共有されていれば、グラウンド・ルールの必要性とその内容について議論し合意に至るのは、困難ではない。

この「認識化-行動化」プロセスは、ワークショップ形式で行うことが可能である。あるいは、「認識化」を全員で行い、その結果を踏まえてリーダーが「行動化」の指針を示すというような展開も考えられる。重要なのは、文化的差異について全員が認識を共有することであり、その認識に基づいてチームとしての行動が変わることである。

次回のコラムでは、文化的差異が障害となるのは国際的な環境にとどまらないことを指摘し、異文化接触と文化間差異を、さらに広い文脈で捉えることが可能であることを論じる。