経営・ビジネスの課題解決メディア「経営プロ」

ゲームを使って後継者を育成する

第7回  後継者候補のプールを作るには実は研修の○○○○が肝だった

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「かりそめの勝者」は必ず裸にする

 勝者は自分のやり方が最善だったと思いたい。しかし、ゲームにおける勝利は必ずしも本人に帰属するわけではない。例えば、第3回と第4回で書いた「意思決定弱者」の脱落(=敵失)や加担、他者間の競合による漁夫の利や、運/リスク/不確実性によるまぐれなどにも左右される。このような棚ぼたを得た勝者のことを「かりそめの勝者」と呼ぶ。参加者が「かりそめの勝者」のやり方を正しいと誤認したままに研修を終えると、学習目標から遠のいてしまう。例えば、本当は借入をするべきではないのに、たまたま優勝した「かりそめの勝者」が借入をしていると、借入をすべきだと学習してしまうことが起こるのだ。これではいけない。

 振り返りでは、参加者全員が研修で考えたことを整理し、学びを紡ぐことで、学習目標から遠のいた状態を軌道修正できる。特に重要なのは、全員の意思決定を整理し、何が最善かをクラスで検討することだ。こうすることで勝者の正体が明らかになる。勝者の思考が言語化可能なものかどうかが明らかになり、勝つべくして勝った意思決定強者なのか、敵失やまぐれやなんとなくで勝利した「かりそめの勝者」なのかを峻別できるのだ。勝者に限らず、途中まで正しい思考プロセスで進めていたけれども、最後に誤った選択をしたり、運が悪かったり、意思決定弱者から利敵行為をされたりして敗北した参加者の思考から学べることもある。

振り返りにはポイントが2つある

 こうした振り返りにはポイントがある。1つ目は「気づきの記録を予告すること」である。研修は長時間だ。参加者はゲームをしながら気づき、振り返りでアウトプットする。良いアウトプットを出すには、研修開始時に振り返りがあることを予告し、気づきを記録することを明確に伝える必要がある。研修には棋譜があるわけではない。記憶は刻一刻と失われるので、ゲーム中の出来事や気づき、判断の理由は後からでは思い出せない。自分の行動に気を配れているマインドフルな状態にないからである。

 2つ目は「随時振り返ること」である。研修の最後に振り返りを行うと、直前に起こったことや、最も印象的だったことだけが思い出され、それ以外の雑多な学びは失われてしまう。実は、雑多な学びの中にこそキラリと光る学びがあることが多い。電車やベッドやトイレや風呂で良いアイデアが浮かび、少ししたらすっかり忘れていることはないだろうか。研修でもこれが起こるのだ。このため、ゲーム中や区切りがつくごとに振り返り、アウトプットと記録をする必要がある。最後に振り返りの時間を設けるだけでは不十分なのだ。

ゲーム研修では「内省スキル」が得られる

 書籍『失敗学のすすめ』の畑村洋太郎氏は、実務を長く経験し、体験は豊富だが経験になっていない状態を「偽ベテラン」と名付けた。御社の社員の体験は経験になっているだろうか。社歴が長いだけの偽ベテランを後継者候補にしていないだろうか。修羅場を同じように体験しても、振り返る力の差が業績を左右する。研修では、振り返りとその力を育むことも重要である。

 だからこそ、当社ではゲームだけでなく振り返りも突き詰めて考えている。ゲーム研修の果実の一つは、体験を経験に変換する「内省スキル」の獲得だからだ。ゲーム研修の本体は振り返りと書いたとおり、良いゲーム研修は振り返りがデザインされている。例えば、気づいたことを起点に水平思考で発散を行ったり、共有することで他者の知恵を取り入れたり、具体的現象をグループ化してラベルをつけ、一般化したりしながら振り返る。
 大人は常に実利的だ。こうした振り返りで体験が経験に変わり「有意義だった」「役に立ちそう」「意思決定が結果につながる」という鮮やかな成果イメージが持てるとやる気になり、実際にやってみて、それが次の成果につながれば、その体験をまた振り返るというサイクルが回り始める。こうして振り返りが習慣になり、好業績の起爆剤となる。こうした好業績が、将来の経営者となる後継者の人材プールへとつながっていくのである。

お気に入りに登録

プロフィール

カレイドソリューションズ株式会社 代表取締役開発者 / Ludix Lab フェロー 高橋 興史 氏

カレイドソリューションズ株式会社 代表取締役開発者 / Ludix Lab フェロー 高橋 興史 氏

上場企業や人事コンサルティング会社、ベンチャー企業役員を経て2008年に起業。研修の内製化を通じて、教育研修費の偏在を是正し、研修の絶対数の増加を通じた企業の生産性向上を目指して活動している。特に、自らのビジネス経験を踏まえたクリエイティブなゲーム研修の開発に強みを持つ。主な開発実績に財務研修「パースペクティブ」、倒産疑似体験ゲーム「あかんたぶる」などがある。2014年よりゲームを使った学習の研究団体”Ludix Lab”に参画し、共著として”入門 企業内ゲーム研修”を出版。東京大学や慶應義塾大学大学院などでもゲームをテーマとした講演活動を精力的に行っている。

関連記事

会員登録 / ログイン

会員登録すると会員限定機能や各種特典がご利用いただけます。 新規会員登録

会員ログインの方はこちら