行動が伴わない部下への目標の持たせ方

2016年もあと数日。経営者やリーダーの皆様の多くは、すでに来年の目標を設定し、実現それをイメージしてすでに取り組みをはじめているのではないでしょうか。理念の実現にはしっかりと目標を立て、それを実行することがとても大切です。

 2016年もあと数日。経営者やリーダーの皆様の多くは、すでに来年の目標を設定し、実現それをイメージしてすでに取り組みをはじめているのではないでしょうか。理念の実現にはしっかりと目標を立て、それを実行することがとても大切です。
 しかし、私が研修などでかかわる社員の多くは「今年はどのような目標を掲げ、何を達成しましたか? 来年は?」とお聞きするとうつむいてしまう人が大半です。
 そもそも「目標」というものに、少なからずネガティブなイメージを持っている方も多い様子。そのイメージは、「ノルマ」、「負荷」、「重い」、「辛い」、「ねばならない」、「やらされ感」、「やってもやっても……」、「次から次へと……」、「勝手に決められたもの」など、その言葉を聞くだけで気持ちが沈んでしまうような、そんなイメージをもっているようです。
 さて、目標に対して少なからずネガティブなイメージをもつ彼らも、新年には「今年こそは」と目標を立てるそうです。しかし、お正月が過ぎ、数日会社に通ううちにその気持ちも萎えてしまい、ただ粛々と目の前にある業務をこなす日常に埋没していきます。
 経営者やリーダーのように、目標を設定しそれに主体的に取り組むことができる人と、目標を設定しても3日坊主で終わる人。その差は一体なんでしょうか?

「やる」と言っていても行動が伴わないのはなぜか?

 心理学の基本として学ぶフロイトの学説に、「意識」と「無意識」があります。私たちには「意識」がありますが、その意識には自分が気づいている分野である「意識」と、自分が気づいていない分野である「無意識」の二つの層があるという説で、「意識」は5%、「無意識」は95%といわれています。
 実は、目標に取り組むことができるかどうかは、この「意識」と「無意識」の関係に大きく影響されるのです。
 経営者やリーダーのように、自分で目標を立てて達成できるタイプの人は、「意識」と「無意識」が「一致」しています。わかりやすく言うと「やろう」と思ったことと「やりたい」と思うことに、ズレがない状態です。
 一方、目標に対してネガティブなイメージを持っている人は「やろう」と思ったことと「やりたい」ことが「不一致」の状態になっているのです。つまり、「やろう」と頭では考えるけれども、本音は「やりたい」と思っていない。そのため、頭で考えて悶々としているうちに機を逸し、「できなかった」という結果だけが残ります。
 よく、部下に関するお悩みで「やると言っていても、行動が伴わない人をどう指導したらいいでしょうか」とご相談をいただくのですが、「頭ではわかっているのに、心がそれを受け入れていない」という心の部分をもう少し深く掘り下げていかないと、的を射た策がないのです。

自分でも気づかない本心

 「やる」と言っていても「できない」。このような人を見ると周囲は「やる気がない」と評価します。しかし一番ダメージを受けているのは本人です。言葉では「やる」と言っているのに、それができない。できない理由は無意識下にあるため、本人もその理由がわかりません。しかし「やるといったのにできなかった」という結果は本人の気持ちに残り、やがて積み重なっていくと、無意識のうちに「どうせまたできない」、「自分はダメな人間だ」と思い込むようになり、さらに「やろうと思っても、できない」状態に陥ります。
 しかし、行動が伴わない人も、周囲から「認められたい」という気持ちは持っています。そこで一般的に良いとされていることを「試してみよう」と考えるわけですが、これがまた厄介なのです。
 その「良いとされていること」こそ「目標を持つこと」であり、ビジネスパーソンやアスリートの成功談に必ずといって良いほど出てきます。華々しい実例を目にして「今年こそは」や「今度こそは」と考え目標を立てるのですが、いつの間にかその気持ちは萎え、結果として「できない」という現実に直面し、より一層目標に対してネガティブな印象を、無意識に持つようになるのです。

行動が伴わない部下への目標設定をいかにするか?

 それでは、行動が伴わない部下に対してどのように目標設定していけばよいでしょうか? 「理念浸透」などに取り組むと、大きな目的・目標の達成に向けて、全社目標、組織目標、個人目標へと落とし込むことが是とされていますが、この場合は別のアプローチをとります。
 そのアプローチとは、日々の些細な目標を達成させることを支援することです。例えば、「今、何が飲みたい?」、「お昼に何が食べたい?」、「今日は何時に帰りたい?」、「これはいつまでに終わらせたい?」、「これはどんな風に仕上げたい?」など、本人がすぐにできそうなことの達成を支援します。
 紹介した目標を経営者やリーダーの目から見ると、「なぜそんなこともできないのか?」と思われるかもしれません。しかし、「人に合わせることが善」と教えられ育つ私たちの多くは、「自分がどうしたいのか?」が意外とわかっていません。
 例えば、職場で「今日、ランチ何にする?」と聞かれたとき「何でもいいよ」と答える人は多いのではないでしょうか。このようなことが、1日の中で何回もあります。つまり、自分の意思を持って行動する場面が極端に少ないのです。
 そのため、日常の些細な場面の中で、意思を表し、そして行動に移していきます。
 すると、「やりたいと思ったこと」→「行動」→「結果」がつながり、それを積み重ねていくと、目標に対するイメージがネガティブなものでなくなっていきます。目標に対するイメージが変わると、徐々に行動が伴うようになっていきます。そうなると、理念や組織目標に対しても前向きな行動ができるようになります。

 よく管理職研修などでは「部下を信頼し、部下の話をよく聴きなさい」と言われます。
 今回の話をもとにすると、それは実に理に適っているといえます。その理由は、部下も部下の無意識下で何が起こっているかよくわかっていないからです。よくわからないから行動できない。これが理解できていると、部下への接し方も変えられるのではないでしょうか。
 
 部下それぞれの、些細ともいえる目標を大事にすることが、もしかしたら大きな目標達成の近道かもしれません。

 2017年がよい年となりますようお祈りしております。