社員の行動を変える「インナー・ブランディング」とは?

理念浸透の重要性を感じていながらも、なぜ理念が浸透しないのでしょうか。そこで、本コラムでは、具体的にどのようなアプローチを進めればよいのか。この点について取り上げていきます。

 近年、「理念経営」への関心が高まっています。その主な目的は、CSRの面から自社の経営姿勢を社内外に示すことが挙げられますが、それぞれの組織のニーズとして、次のような課題感を内在しています。

・業績改善・向上への期待(JAL再建におけるフィロソフィー導入などを例として)
・不祥事後の経営改善への取り組み(不二家の理念改定などを例として)
・グローバル化により、多様な価値観を持つ社員のベクトルの一致に向け
・トップの方針が現場に伝わらないマネジメント上の課題の解決として
・社員のやりがいや働き甲斐の喚起による、モチベーション向上への期待
・社員の採用や定着率の向上への期待 など

 このような課題感の解決への期待から、「理念経営」に注目が集まっています。しかし、多くの組織でその浸透方法に課題を抱えている様子がうかがえます。
そのことを示すデータがあります。それは、「企業理念浸透に関するアンケート調査」(HRPro2013年10月実施)。そのデータによると、上場および非上場企業の人事部門に実施したアンケート調査に回答した117社のうち、「理念は浸透しているか」の項目に「そう思う」と回答した企業はわずか6%。「ややそう思う」36%。それに対して「あまりそうは思わない」40%、「そう思わない」13%となり、実に53%の企業で理念が浸透していないと感じていることを示しています。

 理念浸透の重要性を感じていながらも、なぜ理念が浸透しないのでしょうか。そこで、本コラムでは、具体的にどのようなアプローチを進めればよいのか。この点について取り上げていきます。

そもそも「理念浸透」をどうイメージされますか?

 理念浸透が難しい理由の1つに、「浸透の度合い」を示す指標が明確化されていないことが要因として挙げられます。
 例えば、メディアなどでは、朝礼時に理念を唱和し、その後自分の理念体験を語るようなシーンを取り上げることがあります。
 そのシーンを見て、それが「理念が浸透している」といえる状態であるかと問われたら、どうお考えになるでしょうか。
 個人的には「少し違うかな」という感覚を覚えます。そのシーンの位置づけは、「理念浸透のプロセス」だと考えます。
 それでは、東日本大震災の際に、東京ディズニーリゾートのキャストが、販売用のぬいぐるみを防災ずきんがわりに提供したり、お菓子を配布したり、お土産用のビニールを雨合羽として配布するシーンがありましたが、それについてはいかがでしょうか。
 このような行動について「浸透している」とお感じになる方は多いのではないでしょうか。
 その理由として、東京ディズニーリゾートのパーク運営の基本理念には「ファミリー・エンタテインメント」、「テーマショー」、「パーク運営の4つの鍵「SCEC」」が掲げられ、「SCEC」が、S=Safety(安全)、C=Courtesy(礼儀正しさ)、S=Show(ショー)、 E=Efficiency(効率)に対応していることを多くの方がご存知で、その理念に基づいた行動であることが判断できるからです。つまり、対外的にアピールしているメッセージと、実際の行動が結びついていることが「理念浸透」といえるでしょう。
 このような理念を実現するために、東京ディズニーリゾートでは、非常時の措置についてのマニュアル化を進め、様々な形で防災訓練を実施し、その徹底を図っています。
 このような取り組みを見ると、理念浸透には多大な投資と労力を必要とする印象をもたれる経営者も多いようです。そのため、「うちではなかなか取り組みにくい」という印象を持ち、理念浸透施策を講じにくい。これが、理念浸透を阻む要因の1つと考えられます。
 しかし、このような取り組みがある一方で、少し違った形での理念浸透の方法があることをご存知でしょうか。

理念を元に社員の「やりがい」を喚起する

 あるとき私は、理念経営で先進的な取り組みをしている外資系アパレル企業の日本法人支社長(ヨーロッパ出身の方)による「組織のビジョン達成に向け、自ら学び、変革し、成長し続ける風土づくり」に関する講演会に参加したことがありました。
 この講演の中で私が期待していたことは、「理念をどう日本のスタッフに浸透させていったか」であり、方法論を中心に語られると想像していました。
 しかし、講演の内容は、その期待と異なるものでした。
 その方は、「社員への問いかけが重要であり、問いかけるためのワークショップを自ら展開した」とおっしゃったのです。

その問いかけとは、
・私たちは、何のために存在するのか?
・それを、誰のために行うのか?
・自分はどんな人生を生きたいのか?

 「アナタハ、ナゼ、ナンノタメニ…」

 これをひたすら繰り返し続けた、とおっしゃっていました。

 その結果、1年後には社員の意識が変わり、顧客との強いキズナを作ることができ、その後の日本におけるブランドのポジションを確立することができたそうです。
 このような例を元に、「理念経営」で成果を挙げている組織の取り組みを調査すると、同様の問いかけを実施しているケースが多数見受けられます。

 「理念浸透」というと、トップから非正規雇用の社員にいたるまで、メッセージを伝える手段や行動化に向けた訓練をイメージしがちです。しかし、成果を挙げている組織のケースでは、かかわる人一人ひとりの「働き甲斐・やりがい」を喚起するための施策を充実させています。

 それを、私どもSix Stars Consultingでは「インナー・ブランディング」と位置づけ、具体的な考え方や展開方法を提供しています。
 次回以降、その具体的な考え方や展開方法を紹介していきます。


【参考情報】
調査データ引用元:HRPro 2013年8月調査データ
「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告
必要性は認識するも進まぬ理念の浸透



東京ディズニーリゾート
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警備・救護・防災