経営トップの経営判断の基準とは ~モラル遵守が促進されるか~

不倒不滅(長寿)の企業づくりを実現するために、「何を経営判断の基準にすれば良いのか」、第3項「モラル遵守が促進されるか」をご紹介します。
モラルとは、一般的に、「道徳、倫理」という意味です。ビジネスの世界では、「企業倫理」「商道徳」「規律」「自分達の言動に対する善悪の理解の有無」という意味で使われます。昨今では、メンタル不調の強い要因としてのモラルハラスメントの重要性も指摘されています。

長寿企業はモラルを大切にする

不倒不滅(長寿)の企業づくりを実現するために、「何を経営判断の基準にすれば良いのか」、第3項「モラル遵守が促進されるか」をご紹介します。

モラルとは、一般的に、「道徳、倫理」という意味です。ビジネスの世界では、「企業倫理」「商道徳」「規律」「自分達の言動に対する善悪の理解の有無」という意味で使われます。昨今では、メンタル不調の強い要因としてのモラルハラスメントの重要性も指摘されています。

ところが、残念なことに「モラルと企業業績は関係ない」「企業業績が最も重要で、モラルはゆとりのある企業が考えれば良いこと」と捉えている企業も、巷に数多くあります。

そのような企業は一時的には業績が上がっていたとしても、長続きしていないという事実を、経営トップとして再認識する必要があります。逆に、長寿企業といわれる企業は、何よりも信頼やモラルを大切にします。つまり、業績を上げ続ける長寿企業の条件の一つでもあるのです。

経営トップの葛藤と痛み

しかし、現実にはさまざまな経営判断の葛藤が発生します。

①社内で、「モラルを厳しくすれば、業績向上にブレーキがかかる」という考え方と「モラルを徹底するからやる気につながり、業績が向上する」という相反する考え方が拮抗する
②経営トップが理解に苦しむようなケアレスミスが頻繁に発生し、発生後に事の重大さに気付く。強制力だけでは改善が見込めず、当然、最終的に経営トップの責任となる
③モラルの集団基準を高めようとして、行動指針を打ち出しても、功を奏しているかどうかが解らない
④以上のような現象や岩加算を経営トップが感じても、有効な手立てがない

これらの葛藤や疑念は、明らかに、モラルの低下が原因です。モラルは低下自体も問題ですが、モラルの低さが続くとモラル感覚が麻痺してくるため、善悪の判断がつかなくってしまう怖さがあるのです。

それが原因で、大きなミスや事故、お客さまからの大きなクレームが起こる。あるいは、仲間の心を平気で傷つけたり、皆で一人を傷つけていることに気付かなくなり、モラルハラスメントとなる。その結果、信頼を失墜する憂き目を体験することになる場合も多いのです。

私の場合

10数年前、個人情報保護法成立以前に、ジェックではいち早く、法に対応した教育やコンサルティングに取り組み始めました。それは、事業の1つとしてだけでなく、自社の個人情報に対する認識レベルを上げることを意図していました。

すると間もなく、パソコンの紛失事故が発生しました。事業として進めている自社の信用を根底から覆す事故ともいえます。当時その対応に、土下座する想いで、お客様に陳謝する以外に方法はありませんでした。

これは氷山の一角にしか過ぎませんでした。さらに、社内にはヒヤリハットが頻発していることが明確になってきたのです。

これは、当時の社内が個人情報の取り扱いに関する価値観が低いことにとどまらず、モラルそのものの感覚が経営幹部も含め多くの社員の中で、麻痺していたことの現れでした。

事故を起こした場合の経営者の痛みと、信頼回復への道のりは決して楽なものではありません。私自身、個人情報の取り扱いに関しての判断基準が不明確であったことを、深く反省したものです。

この経験で、私が体感したのは、経営者(自分)のモラルの柵(赦される範囲と赦されない範囲)が社員集団の基準になるということでした。

経営トップとしてモラル向上にどう取り組むか?

①問題の原因を自分に求め、モラルを高める方向で判断する
経営トップにとって都合の悪いことは、誰からも指摘されないことが多いもので、「良い報告しか上がらない」のです。さらに、社員にモラルの高さを求めるのであれば、自分の言動をニュートラルに振り返る習慣をつけ、言動に「モラル違反に無神経になっていないか」を虚心坦懐に点検することです。

②幹部登用の条件として、モラルのある人を登用する
能力の高さや実績の重視は当然ですが、仕事、人や組織、真理に対する真摯さを幹部登用の最も重要な判断基準とすることです。

経営幹部は、経営トップと同様、自分をニュートラルに客観視し、部門最適ではなく、全体最適で判断しなければなりません。その時に、真摯に自分を振り返ることができる人は、全体のモラルを下げることは少ないでしょう。逆に、モラル感覚の鈍い経営幹部は、どんなに能力が高く、言葉巧みであっても、その人のモラルレベルに社員も落ち着いてしまうでしょう。

つまり、社員のモラルレベルは、われわれ経営トップや経営幹部の真摯さをそのまま映す鏡なのです。

③集団のモラル基準に気をつける
モラル感覚の麻痺は、インフルエンザのように伝染します。「皆がモラルを守っていないから、守らなくても良い」という考え方ほど、怖いものはありません。気が付けば自分のモラルまで麻痺してくるからです。

④Yラインを活用して、赦されることと赦されないことを明確にする
Yラインとは、マネジメント上、「悪い中にも悪い。だから赦されない」と認識できる基準のことです。これは、Y理論のマネジメントを実践していく中で、信頼を保つためのラインともいえます。このYラインを設定し、マネジメントに活かすことで、モラル基準を上げることができます。

⑤モラルの低い取引先とは取引しない
これは、約束を守らない、自社の都合しか考えない、いい加減なことをす、隙あらば利用しようとする、個人情報の取り扱いが曖昧といった取引先のことです。自社のモラルレベルを引き下げることになります。

経営判断第3項まとめ

モラル(規律)がなければ、モラール(やる気)はおきない/モラルの基本は、お互いの信頼関係にある/組織のモラルが崩れると、結局、市場からの信頼を失う/経営トップが襟を正し、モラルを遵守する姿勢が組織のモラルを高める/どちらがモラルを遵守することになるか、より「もっともだ」がとれるかを判断基準とする

経営トップは自分で責任を持たなければなりません。経営トップの判断基準の一助になれば幸いです。