経営トップの経営判断の基準とは ~お役立ち道に立脚した需要創造型実践理念経営で不倒不滅を実現~

激しさを増すタービュラント(乱気流)の時代で不倒不滅を実現するためには、経営トップにどのような経営判断が求められるのでしょうか。経営トップに求められる能力は、一般的に「先見力」「決断力」といわれています。更に、最近では、それに加えて「忍耐力」「統率力」なども必要といわれています。

経営トップにとって経営判断とは何か

 激しさを増すタービュラント(乱気流)の時代で不倒不滅を実現するためには、経営トップにどのような経営判断が求められるのでしょうか。
 経営トップに求められる能力は、一般的に「先見力」「決断力」といわれています。更に、最近では、それに加えて「忍耐力」「統率力」なども必要といわれています。
 これら4つの能力が必要といわれる理由は、「読み切れない」状況で決定をしなければならない立場と、その決定には、組織全員の人生すら関わってくるという責任がついてくるからです。
 これは、現在経営トップの役割を担っている人は当然のこととして、後継者といわれる人も、またその候補者も、「先見力・決断力・忍耐力・統率力」が適切なのかどうかを問われることでもあるのです。

経営トップと社員集団の「心理的葛藤」

 経営トップとして、方向性を決める場合、どちらを選択しても、メリット・デメリットの割合が「50対50」と思われる時に、経営トップが感じる心理的葛藤は、次のような現象です。
ア. 施策に対して本音のところで自信が持てないが、決定しなければならない。本音としては「さまざまな施策はアイデアとして出されているが、どのアイデアも起死回生とは思えない」が決定しなければならず、これでよいだろうかと葛藤する。
イ. 目先の効率性だけを追求してしまう。喫緊の課題にばかり目が行き、「中・長期」の発想を自分の中で後回しにせざるを得ず、これでよいのだろうかと葛藤する。
ウ.「施策の決定」に留まらず、作業的指示まで不安になり、介入してしまう、などです。
 先の読めない未来に向けて、意志決定することは、経営トップ本人が自覚する、しないにかかわらず、相当なストレスになり、眠れない日も少なくないものです。このような場合は、客観的に経営判断を眺めてみる必要があります。
 そして、客観的指標として、経営の原点に立ち戻ることです。

経営理念(目的・使命)に立ち戻る

 経営理念とは、「何が自社の存在目的なのか、自社の強みを生かして社会や市場をより良くするために、何をなそうとしているか」を言語化したものを言います。そして、その理念に立ち戻ることが大切です。
 なぜならば、経営理念(目的・使命)は、その企業が、社会や市場から支持されてきた価値(サービス・商品)を実証してきているものが、多くあるからです。しかも、何が社会や市場から支持され、期待されているのかを再認識することができます。経営目的に立ち戻ることは、「どの経営判断が社会や市場の期待に応えることに近づくのか」という判断基準になるのです。
 そして、経営トップの経営姿勢(何を大切にしているか)が、社員集団に伝わり、「一緒に頑張ろう」という社員集団のやる気を醸成することにもなります。
 さらに、仕事に対する社会的意義を思い起こすことができ、誇りにつながる確率も高くなるのです。

私の場合

 私が今の立場に就任した時は、戦略優先の方針が長く続き、さまざまな戦略的な打ち手を打ち続けていた状態でした。しかし、業績成果は一進一退というところでした。これを打破するのが、経営トップとして期待されていることと自覚していました。
 最も悩んだのが、「今までの戦略方針をより具体化する方向を打ち出すのか」「理念を深化させる方向を打ち出すのか」でした。
 普通に考えれば、より具体的なターゲットを決めて、起死回生の戦略を打ち出すという方向があります。しかし、そのようにできない体験がありました。
 ジェックでは、ある時期、新しい戦略を経営判断として選択し、戦略を最優先にする時代があり、理念の深化・進化が薄れるという落とし穴を経験しました。
 社員集団も戦略優先という実験行為であるという理屈は分かっていても、モチベーションが上がらず、「何のために仕事をして、何に役立っているのか」の手応えが少なく、モチベーションを上げるのに大変苦労した体験があります。
 この体験から、業績成果が着実に上がっていかない原因は、理念の深化がおろそかになった点ではないのかと考えたのです。
 とはいえ、理念は創業以来、言い続けてきていることです。今さら、「理念の深化だ」と言っても、それが「起死回生の方向で今の業績に直結する」とは、誰も理解しないのではないか、とも考えられました。
 「今までの戦略も間違いとはいえない。だから、より具体的なターゲットを組織として絞り込むことで起死回生の戦略となる」という考え方もあります。しかし、それは、社員集団の依存性を生み、戦略を考えるのは経営トップで、現場はそれを実行する人というトップダウン型思考を強化することになるというデメリットが考えられました。
 つまり、どちらを選択しても、同じような困難さが考えられる状況だったのです。

経営の原点を深化する

 これらを振り返った時の、私なりの結論は、「そもそもわが社は、何のために存在し、社会や市場をより良くするために、何を成し遂げようとしているのか。お客さまにどのようになってもらいたいのかが明確にあり、それを効果効率的に実現するのが戦略である」と、心の中を整理することでした。
 そして、最終的には、例え、短期的な業績成果に結びつかなくても、中・長期的なお客さまと自社の成果をより確実にするのは、理念の深化であるという結論に至りました。
 理念の深化とは、理念を一人ひとりが価値観として統合し、言動レベルで実践できるようにすることです。
 そのように考えた時、自分の中でのさまざまな葛藤が消え、「理念・ビジョン・戦略」が心の中で一本の筋につながったことを覚えています。
 今では、理念を深化させた考え方やノウハウが多くのステークホルダーに支持されるようになってきています。「一進一退」から脱却し、戦略もより成果が感じられるようになり、短期的業績もついてきています。
 経営判断に迷った時は、経営理念に立ち戻ることです。

“経営理念(目的・使命)の実現になるか”で判断せよ

 「何が自社の存在目的なのか、自社の強みを生かして社会や市場をより良くするために、何をなそうとしているか」に立ち戻ることである。