タレントマネジメント戦略の本質 後編

前回は、タレントマネジメントの導入目的を明確化さることの大切さと、人事部がその責任を果たすために、現在の人事部の役割を確認し把握をしておくことについて学びました。タレントマネジメント戦略の本質的な戦略は2つあります。

 前回は、タレントマネジメントの導入目的を明確化さることの大切さと、人事部がその責任を果たすために、現在の人事部の役割を確認し把握をしておくことについて学びました。

 タレントマネジメント戦略の本質的な戦略は2つあります。
 ひとつは、これまでの人材(材料)を人財(財産)として取り扱い、新たな人財を活用していくための人財マネジメント戦略です。そして二つ目は、それを実現させるための新たな役割を担う人事部の部門戦略となります。
 この両方の戦略が揃って、タレントマネジメント戦略が有効になります。そのため前回は、この全従業員の情報と人事部の現状の把握をしてみました。

 今回はまず、人財マネジメント戦略を理解していきます。なお、人事部戦略は、第10回のコラムで説明をします。

人財マネジメント戦略の位置づけ

 まずは人財マネジメントの位置づけを、図の「マネジメント構造」で確認します。この図で分かるように、まず経営理念があってそこから、長期的な目標であるビジョン、そのシナリオとなる経営戦略と展開していきます。
 そして戦略の具体策として経営計画に落とし込み、経営資源の「ひと、もの、かね、たね(情報)、とき(時間)」といった経営資源をどう活用していくかという経営管理に展開します。
 これに基づいて、組織マネジメント、人財マネジメントが行われます。有名な手法にPDCAマネジメントなどがあります。
 この人財マネジメントの対象は、すべての業務や職務に応じた日々の現場での活動のマネジメントになります。
タレントマネジメント戦略の本質 後編

人財マネジメント戦略の構成要素

 戦略を検討する際、必ずといっていいほどSWOT分析を行います。
 もちろん、人財マネジメント戦略を検討する際もSWOT分析は必須です。ここでは、SWOT分析の内部環境分析のみに焦点を当てて解説していきます。外部環境分析は省略します。
 では、人財マネジメント戦略における内部環境分析では何を検討し、何を分析しなければならないか、を考えてみたいと思います。

 以下の3つの大項目、「人財分析」「人事制度分析」「組織分析」の項目で分析を行います。

1.人財分析
①従業員満足度(ES)調査による人財と組織の状態を分析する
②従業員の適材適所、雇用のミスマッチなども含め分析する
③経営計画や組織計画達成に必要な育成計画を分析する
④コンピテンシーを分析する
⑤職務分析(役割に対する仕事量、パフォーマンスなど)、労働条件や内容、業務分担を分析する
⑥自己実現とキャリアパス、仕事のやりがいの源泉、価値観の分析

2.人事制度分析(グローバル経営、グループ経営に対応するための制度分析)
①採用による人財確保の課題を整理し分析する
②人事評価と評価者の適性など課題を整理し分析する
③賃金制度(賃金体系と経営の業績との関係)を分析する
④等級制度の課題を整理し分析する
⑤昇進・昇格制度、特に、公平さなど分析をする
⑥人財育成計画を整理し分析する
⑦モチベーションやモラルの状況を把握し分析する

3.組織分析
①組織別の人員構成(年齢、性別、等級別、勤務年数別、職種別)を分析する
②雇用別のポートフォリオ(正社員、契約社員、パートタイマーなどの人数、構成比率)を分析する
③組織内のコミュニケーション(理念や経営戦略などの浸透、情報共有、上司との報連相や関係性、重要な面談の実施内容、フィードバックなど)を分析する
④組織の実行力(目標設定、業績評価、業務分担、権限と責任委譲など)を分析する
⑤ハラスメント対応とその効果などを分析する
⑥マネージャの力量を把握し、課題を分析する
⑦後任者の有無、育成における課題を分析する
⑧コンプライアンスや現状の組織における課題を整理し分析する

 人財分析では、従業員の状況・状態の情報が把握できないと分析は進みません。ES調査や従業員との普段からのコミュニケーションなどがあって、課題発見が可能となります。タレントマネジメントは全従業員を対象とし、それぞれの従業員情報、特に、適材適所の配置となっているか、強みや特性は何か、性格や資質は何か、価値観(やる気の源泉)は何か、これまでのパフォーマンスは何か、どのようなキャリアパスを通して自己実現を果たしたいのか、これまでの教育研修の実績はどのようになっているか、などが必要となります。

 従業員情報というと、これまでは、生年月日、住所、入社日、配属先、等級、給与・賞与、家族構成、学歴、職歴などが主要な情報でした。タレントマネジメントでは、これらの情報も必要ですが、これまであまり注目してこなかった情報が特に重要となってきます。
 採用試験で適性検査を実施している企業も多くあります。また、昇進・昇格試験にマネジメント適性検査を実施している企業もあります。教育研修を受けると履歴管理されたり、異動すると社内履歴に管理されます。
 これらを総合的に、統合的に一元的に整理し、分析します。

現状分析のポイント

 タレントマネジメント戦略を策定するために、現状を把握し、整理し、分析しますが、分析する際のポイントがあります。それは、前回の第7回のコラムで理解した「タレントマネジメントの導入目的を明らかにする」ことです。この目的の明文化は、めざすべき将来像であり、タレントマネジメントにおけるビジョンとなります。ここでいうビジョンは少なくとも3年後の将来像であり、通常は5年後、場合によってはそれよりも長い年をかけてありたい姿を明文化しておきます。
 ビジョンを明文化する際は、現在の状況や状態を一旦は無視してみることです。現在に囚われてしまうと、夢のあるビジョンにすることはできません。
 分析のアプローチには、現状を起点として考える「現状分析先行型アプローチ」と、将来を起点として考える「ビジョン先行型アプローチ」(図)の二種類があります。
 ビジョンが高い目標であれば、その達成意欲を高めるために、ビジョン先行型アプローチが最適となります。
タレントマネジメント戦略の本質 後編
 ビジョン先行型アプローチも万能ではありません。ビジョンを明文化する場合は、現在に囚われないようにと言いましたが、現状を完全に無視してしまうと実現性に乏しい単なる夢物語になってしまう危険があります。目標があまりにも高すぎると、チャレンジをする前から意欲が消えてしまうこともあります。無理な目標は許されると思いますが、無茶な目標は問題となるかもしれません。この目標を設定する際は、少なくとも3年から5年先で実現可能でなければなりません。かと言って、これまでの経験とやり方のまま数年で達成可能な目標では、ここで言うビジョンと呼ぶには問題があるかもしれません。
 たとえ10年先、20年先、さらに先の夢を描いたとしても、それを3年先や5年先のビジョンに落としていくことが必要です。

 タレントマネジメント戦略における人財マネジメント戦略は、企業のマネジメント構造のビジョン達成に向けての人財の確保であり、登用であり、活用です。そのための組織を機能させ、環境を整え、人財の活躍やパフォーマンスに応じた適切な評価、処遇などといった制度や仕組み、ルールが明文化され、バラバラに運用管理されることなく、各機能が総合的に実現させるための戦略となります。

 次回の第9回では、人事戦略を検討していくうえで、人事課題について考えてみたいと思います。