陰陽五行が示す経営プロセスサイクル

第2回では、「経営階層に必要な能力」について記述しました。経営階層の特徴である「外向き」「長期」「革新」「間接」に必要な能力とその身に付け方を紹介しました。今回は、経営プロセスサイクルと各プロセスに必要な能力という点について、東洋思想の「陰陽五行」をベースに話を進めいきます。

 第2回では、「経営階層に必要な能力」について記述しました。経営階層の特徴である「外向き」「長期」「革新」「間接」に必要な能力とその身に付け方を紹介しました。
 今回は、経営プロセスサイクルと各プロセスに必要な能力という点について、東洋思想の「陰陽五行」をベースに話を進めいきます。

マネジメントプロセスサイクル

 マネジメントプロセスサイクルと言えば、「PDCA」が有名です。PLAN(計画)・DO(実行)・CHECK(評価)・ACT(改善)ですね。このマネジメントサイクルは、第1回で述べたプロジェクトマネジメントにおいて有効なものです。プロジェクトが形成されると、目的ははっきりしていますので、それをもとに計画から始めていけるわけです。ですからPDCAは実務階層におけるマネジメントプロセスサイクルと言えます。
 では、プログラムマネジメントでは何が必要になるのでしょうか。複数のプロジェクトをコントロールすることになりますので「全体の経営資源をいかに効果的に投資していくか」という決断が必要になってきます。従って、プログラムマネジメントレベルになりますと、必然的に経営目的、経営目標の実現の為の経営戦略との整合性が問われてきます。この点が経営階層に必要なマネジメントプロセスサイクルの重要な要素ということになります。さらに言えば、経営戦略立案の前に経営の使命の確立と浸透が重要となってきます。使命の重要性については、ドラッカーが繰り返し主張していますが、そのドラッカーは日本の経営者、特にオムロンの創始者である立石一真氏と親交が深かったと言われており、その主張の背景には日本的経営思想が影響を与えていたと言えるかもしれません。

「陰陽五行」とは

陰陽五行とマネジメントサイクルの関係に入る前に、簡単に陰陽五行の解説をしたいと思います。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
 陰陽五行の思想は、儒教と共に日本に伝えられたといわれています。木→火→土→金→水(もく・か・ど・ごん・すい)という五気がめぐり、森羅万象を生み出していくという思想です。五行の「行」には、「循環」という意味があり、「五行」で「五気が循環する」ことを意味します。
 陰陽五行では、五行相生(そうじょう)と五行相剋(そうこく)という作用が有名です。木が燃えて火になり、火が消えて灰(土)になり、土の中に金(属)が生まれ、金の表面に冷えて水ができる、水は木を育む、……
 という好循環ですね。一方、五行相剋は、一つ飛びの二気関係です。「木は燃えて火となり、火が消えて土になる」ですが、木は成長して「土を侵す」。「火が消えて土になり、土の中に金が生まれる」ですが、火は強くなると「金(属)を溶かす」。「土の中に金が生まれ、金の表面に水ができる」ですが、土は盛り土となって「水をせき止める」。「金の表面に水ができ、水は木を育む」ですが、金は加工されて「木を切る」。「水は木を育み、木は燃えて火になる」ですが、水は集まると「火を消す」。つまり五行相剋は一本調子の五行相生だけでは駄目で、すぐに好循環を止める反作用が起きてくることを意味しています。成長曲線では、順調な成長の後に踊り場という横這い状態が現れますが、これは五行相剋が働いている状態と言えます。この反作用を新たな工夫をすることで乗り越えると次の成長曲線が始まる、ということになります。
 五行には、色も配置されています。青(木)・赤(火)・黄(土)・白(金)・黒(水)の五色です。日本の文化には、陰陽五行思想が根底に流れていて、例えば国技である相撲の土俵の上にある四つの房は、東に青房・西に白房・南に赤房・北に黒房となっており、黄色は土俵の色が示していて見事に五色が表現されています。
 又、五行には神獣も配置されています。青竜(木)、朱雀(火)、麒麟(土)、白虎(金)、玄武(水)の五神獣ですね。

「陰陽五行」の読み解き

 陰陽五行がマネジメントプロセスサイクルとどういう関係があるのかと、いぶかしがる方も多いと思います。これから東洋思想を読み解いてその関係を明らかにしたいと思います。
 初めに、道教の教えを説いた「老子」や、陰陽の基礎となっている「易経」を参考に考察したいと思います。

1.老子・易経からの読み解き
「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生じる。
 万物陰を負いて陽を抱き、沖気を以って和を為す」(老子、道徳経)

 一が陽の気、二が陰の気、三が冲の気を示していて、三により万物が生成されると説明しています。陰陽の考えが有名なので、この冲気については見過ごしがちですが実は森羅万象の元は、この冲気にあります。仏教では「中道」、儒教では「中庸」と言われますが、道教で言う「冲」の気を指していると思われます。
 五行もこの三気から構成されます。木の気は「陰→陽」(陰から陽に変化していく)を表し、火の気は「陽→陽」(陽から更に陽を極める)を表し、金の気は「陽→陰」(陽が終わり陰に変化していく)を表し、水の気は「陰→陰」(陰から更に陰を極める)を表しています。これで四気は説明できます。残すは冲気ですね。
 太極図にあるように、陽を極めたところに現れる陰、陰を極めたところに現れる陽、この変化を司るのが冲の気となります。ですから、冲の気は、四象の境目に存在します。四季の前にある18日間を土用といいますが、この土気が冲の気であり、陰陽の気の変化の間(季節の変わり目)に存在している訳です。立秋の前の土用は、7月下旬から8月初めに当たりますが、特別に「暑中」と呼び、お見舞いの手紙を送るのが習慣になっています。日本の伝統的お祭りは、この土用の時期に配置されていて、農作業などで土を掘り起こしたりして、土気を侵したりしないということが由来のようです。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
 易経の表記では、過去と現在で四象を表現しますが、土用も加えると八象となり、「冬(陰・陰)」・「春土用(陰・冲)」・「春(陰・陽)」・「夏土用(冲・陽)」・「夏(陽・陽)」・「秋土用(陽・冲)」・「秋(陽・陰)」・「冬土用(冲・陰)」・「冬(陰・陰)」……と繰り返していくことになります。では、「冲・冲」は、何を表すのでしょうか。これは、変化の基軸であり表には現れない中心軸の土気を表現していることになります。又、四象が展開される場を提供している気ということもできます。ですから、陰陽五行というのは、本当は冲も加えて、陰陽冲の三気の過去×現在で、陰陽冲九行というのが本来ではないかと思います。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
2.色からの読み解き
 今度は、五気の働きを色の面から考察してみたいと思います。
<木の気>
 木の気は青ですが、可視光線で波長が短い領域に位置していますので、周期は速くなります。つまり、木の気は知識を吸収し原理原則を学んで、その適用可能性を探る分析的眼を持ち、「時間を短くする」働きということができます。周期を極限まで短縮化すると波形は縦棒に収斂しますので、木の気のベクトルは縦方向となります。

<火の気>
 火の気の赤は、波長が長い領域に位置していますので、周期は遅くなります。木の気で得たものを周囲に「普及・浸透させていく」働きとなります(燎原の火のように周囲に広がる)。色々な人々に浸透させていくには、時間は相手に合わせて遅くすることが重要となります。痛みの治療で赤外線を使うのも、波長が長いので浸透力があるからですね。周期を極限まで遅くすると横棒となりますので、火の気のベクトルは横方向となります。

<金の気>
 金の気の白は、青と赤と緑の光が交わるとできる白色光の色です。緑は地球の自然の色と言えますので、活動の場の色と言えます。白色は陽の青と赤そして場の色の緑の三色光を調和させた色で、働きとしては体系化ということになります。ベクトルとしては全方位で、陽の気で生成された新しい成果物を、既存の体系にどう組み込み代わりに何を捨てていくか、という「取捨選択をする」働きでもあります。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
<水の気>
 水の気は、黒色ですが実は黒には二つの黒色があります。可視光線の領域外の光は、見えないので黒色となりますが、実は青→紫→紫外線→……と波長が短くなる超短波としての黒色と、赤→赤外線→……と波長が長くなる超長波としての黒色があります。前者の黒色を「玄」と呼び、後者を「昏」と言います。プロフェッショナルの玄人はなんでも「素早く処理」できますので、この「玄」の黒色となります。一方「昏」の方は、赤よりも更に周期が長くなりますので、「遅く待つ」働きとなります。従って、水の気の働きは、「超速」と「超遅」の二つの働きを有しています。木の気の速さをはるかに超えて速く、火の気の遅さをはるかに超えて遅く、というのは換言しますと、現象世界を超えた精神の世界の働きを意味しています。「超速」とは身体的認知時間よりもはるかに速い直観の世界です。「超遅」とは慈悲・救済といった包み込んでいく働きと思われます。水は温度によって固体・液体・気体と三相に変化しますが、固体は陽の気、液体は陰の気、気体は冲の気を表しているようにも思えます。固体の相が超速で液体が超遅だとすると気体が冲の気を表していることになり、おそらくは、志などのベースとなる「念(おも)い」の働きではないかと考えています。以上から、水の気の働きは、精神的働きを意味しており、それは即断即決の「叡智」、包み込む「慈悲」、来るべき未来を描く「念い」の三つの働きを含んでいることになります。水の気のベクトルとしては、過去から未来への発展の方向となります。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
<土の気>
 最後の土の気ですが、色は黄色。自然の緑と赤が交わる時にできる色で、波長的には中間の波長に位置づけられます。場であり中心軸であり、加えて異なる気を「つなぐ」働きを持っています。「冲」には、「陽」と「陰」の両方の気が含まれていることから、両者を理解してつなぐことが可能となるわけです。中心軸とは水の気の節で記述したように、未来を描く「念い」ですね。志と言ってもよいですが、経営者が持つ「念い」に共鳴して、自律的活動が促されます。多くの人がその念いにひかれて巻き込まれ、大きな渦を形成して行きます。従って、土の気のベクトルは、回転となります。

 以上、色からの考察を記述しました。五気のベクトルの向きは、実は五個の腰椎の働きに対応しています。腰椎一番が上下運動、二番が横運動、三番が回転運動、四番が開閉(骨盤の開閉)作用、五番が前後運動に呼応しています。実際、各々の腰椎に手を当てて呼応する運動をすると、とても動き易くなります。腰椎の働きが五気のベクトルの方向に呼応しているとは、面白いですね。
3.神獣からの読み解き
 次に、陰陽五行で五気に配置されている神獣から、五気の働きを考察したいと思います。
木の気は青竜。高き理想を目指して上って行くことから、夢や希望に向かって「努力・精進する」働きということが言えます。
 火の気は朱雀。空高く飛んで地を観察することから「俯瞰する」働きと言えます。
 土の気は、麒麟ですね。麒麟は麒(き)がオス、麟(りん)がメスで互いに気を送りあって受精・出生し、その齢は千年ともいわれています。ビール会社のロゴで有名ですね。動物の優れた四体を集め創造されたといわれており(頭が狼、足が馬、尻尾が牛、胴体が鹿)、あらゆる動物の毛を有しているそうで、仁獣として他の四神獣よりも位は上の位置づけの神獣です。あらゆるものを「包含している」働きといえます。
 金の気は白虎。中国では白虎を百獣の王と呼んでいるそうです。白い百獣の王というと日本では「ジャングル大帝レオ」を想起する人も多いでしょう。また、南アフリカに実在するホワイトライオンについたまとめた書籍「ミステリー・オブ・ホワイトライオン」(ヒカルランド刊、リンダ・カッター著、東海笑子訳)によると、ホワイトライオンは太陽神の使いであり、造化の化身とのこと。従って、金の気とは、「創造と進化」の働きということになります。腰椎4番は、女性が出産時に使う骨盤の開閉を司っていますので、この呼応はうなづけますね。
 最後の水の気は、玄武です。甲羅を持った亀ですね。浦島太郎の物語にも出てくるように亀は竜宮界(精神界)に出入りできる存在です。そして甲羅に六角形を背負っていることから、結晶智を意味していると思われます。話は少し飛びますが、「積水」という言葉が孫子に出てきますが、「水を溜めて一気に流すことで相手を一蹴する」戦略を意味しています。実は、その奥には結晶智の意味があると考えています。積水化学工業の社章が亀甲の六角形を採用しているのもうなづけます。

「陰陽五行」が示す経営プロセスサイクル

 ようやく本稿の本論に辿りつくことができました。これまでの考察をまとめると以下の表となります。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
 以上の整理から、陰陽五行が示す経営プロセルサイクルを構築して行きたいと思います。
 水の気は、精神の働きで「念い」ですから、経営理念に基づくミッションを掲げるということを示しています。「大学・中庸」に、大極には「体」と「用」と「則」の働きがあるとありますが、体=陰、用=陽、則=冲と言うことができます。この「体」が理想状態のビジョンですね。「陽」はこのビジョンを実現するためになすべき「使命」となります。そして「則」は、法則という意味もありますが、その奥にあるものを読み解くと、ビジョンを実現しようとする「志」ということができます。まさに「理を念う」ですね。ドラッカーも主張しているように、経営プロセスの最初と最後は、この「経営理念」プロセスとなります。
 経営理念というと現代では大分遠い存在と感じられる経営者も多いかも知れません。確かに短期的には経営活動には関係ないようにも見えます。しかし、昨今重視されている自律的人材の育成にとって、もっとも大事なのが共鳴するべき経営理念の提示です。経営理念の中で、会社として何を重視し、価値とするのかを明確化しなければなりません。例えば、昔急成長した東京通信工業、後のソニーの経営理念には、「快」「小」「匠」という価値が明記されていました。この価値が社員に浸透していたために、次々と新しい製品の創造が継続して行ったと言えます。この価値というのは抽象的ですが、常にこの理念価値に立ち戻ることが、実はきわめてイノベーティブな経営をもたらすことを保証するのです。この辺の記述は別の稿で詳述したいと思います。
 水の気の次は、木の気ですね。これは「学習・研究・開発」プロセスとなります。会社が重視している価値を体現している製品・サービスを支える技術・知識を学習・研究し続け、そして開発し続ける必要がある訳です。
 水の気の次は、火の気です。これは「マーケティング・営業」プロセスということができます。製品・サービスの継続販売と新しいクライアントの開拓ですね。
 火の気の次は、金の気です。これは「イノベーション」プロセスと位置づけられます。既存の製品・サービスの継続と新規製品・サービスの投入、あるいはそれを支える技術・知識の継続と変革、それを体現するシステム、組織制度の継続と変革、等がその働きとなります。
 金の気の次は、水の気ですね。これは「経営理念」プロセスというのは前述しました。「経営理念」に基づき、「学習・研究・開発」→「マーケティング・営業」→「イノベーション」とプロセスを進めます。この三つのプロセスは顕在化した現象世界で進みますが、「経営理念」のプロセスでは得られた成果を振り返り、その成果は当初経営理念で重視した「理念価値」を体現しているのかどうか、そこに一点の曇りもないのかどうか、を追求する必要があります。何か違和感がある場合はやり方の見直しが必要ですし、場合によっては新しい理念価値の付加が必要になってくると思われます。第1回で木の年輪は断層的発展を暗示しているとお伝えしましたが、理念価値による見直しプロセスこそが断層的発展をもたらす訳です。
 土の気は、プロセスとしては現れませんが、プロセスを行う場の維持として重要な働きを示しています。経営理念とその具体化された三つのプロセスをつなぐ回転軸としての「経営推進」であり、回転を安定的にするための健全な「経営風土」を維持する働きとなっています。
以上をまとめると、下図のようになります。
陰陽五行が示す経営プロセスサイクル
 アメリカにおいてもリーマンショック以来、経営のあり方について反省が進んでいるようですが、ドラッカーが主張するように「経営理念」プロセスを追加しないと抜本的解決にはならないと思います。先進国では社会インフラが整備され、プラトンが言った「真・善・美」の理想価値の中で、「真・善」まではクリアされたかに見えます。そして現代は「美」に力点がシフトされてきているように思われます。「美」に含まれる理念価値の中から何を自社の理念価値とするかの選択とその具現化こそが、時代が要請する断層的発展をもたらすきっかけになると思えてなりません。その意味で「経営理念プロセス」の重要性が増してきていると言えます。