批判的思考(クリティカルシンキング)を向上させる

思い込みに振り回されないために、会議では多面的に考えるようにするクセをつけていきます。多面的に考え議論することができると、批判的思考(クリティカルシンキング)が身につきます。批判的思考力が向上すると、より本質的な意見を導き出すことができます。

【事例before】
 営業部へのサポートが決まり、「どんなサポートをするか?」について、会議にて話し合いが行われている経営企画部内。
 新卒の浜田が意見を出した。
「営業部の人たちは、PC入力など内勤業務が苦手な人が多いと聞いたので、内勤業務のお手伝いをした方がいいと思うんですよ。そこでお見積りも請求書も含め、営業から口頭で指示してもらって私たちが端末入力すれば、営業の作業が軽減できるんじゃないですか?」
 浜田の意見に、同じく新卒の岡倉も「僕もそう思います。それなら僕でもできそうですから……」と言っている途中で、課長の浅丘が話に割って入った。
「おぉ、新人の2名もよく分かっているね~! その積極的に手伝おうという姿勢、すばらしいね! まさにそうだよ。営業部の者たちは内勤業務が苦手なやつらばかりだ。営業1課の尾形なんかは完全に苦手だよ、同期だったから知り合いだけどさ。書類作らせても入力ミス多いし。営業の連中は勢いはあるけど細かいことは苦手なんだよ。きっとそのサポートが喜ばれる。他の者はどう思う? 風間さんは?」
「よく分かりませんが、それでいいんじゃないですか~。営業の人たちが苦手なら、お手伝いしてあげれば……いいですよね? 吉川さん」
 風間はそう言って、隣に座る吉川に話を振った。
「う~ん……どうでしょう? 営業部の人たちが全員内勤業務が苦手なのかどうかって、憶測でしかありませんよね。独自のやり方や、お客様によって多少違うこともあるだろうし、口頭で指示もらって、後々ミスの多発がないか、よく検討したほうがいいんじゃないでしょうか?」と、それまで出ていた意見とは少し視点が違う意見を言う吉川に、浅丘は「……あのさ! せっかくみんなで意見がすんなり一致しかけたときにそういうこと言う? 吉川さん!」と不機嫌な表情で非難した。
「そうは言いますが、浅丘課長! もう少し、いろんな面で考えてみてはいかがですか? 『営業部はみんな内勤業務が苦手だから手伝う』というのはあまりに短絡的ではないですか?」
「吉川さんこそ、もっとみんなの意見を尊重してほしいなぁ。せっかく、まとまりかけていたところを……壊す? 君、空気読めないよね!」
「ちょっと待ってくださいよ! 空気読めないって……なんでも意見を出してくれって言うから、出したんじゃないですか! みんな同じ意見なんて、会議の意味あります? それおかしくないですか!」
「……ちょっと、落ち着きましょうよ! 浅丘課長! 吉川さん!」と、話し合いが脱線しそうな勢いで言い合いになる二人に、風間は見るに見かねて止めに入るのだった。

多数派意見だけを尊重しない

 会議では、「営業は内勤業務が苦手だから、内勤を手伝う」というところで話が進んでいました。それに対し、吉川のみが別の視点からの意見を出して、課長の浅丘が非難しました。
 みんなとは違う意見を出す吉川に対し、「みんなの意見を尊重して」と浅丘は述べていますが、このように『多数派意見=正しい意見』とする会議はとても多いです。しかし、多数派意見がはたして正しいでしょうか?

“多面”で物事を考える

 自分にとって“当たり前”と思っていることが、実は、当たり前ではないということがよくあります。この当たり前と思っていることが、固定概念(=思い込み)です。
 たとえば、あなたが「10円玉が入る大きさの穴を開けてね」と言われたとします。そこで、丸い形をつくり、穴を開けたとしましょう。そこへ、「何やってるの!! こんなに丸い大きな穴を開けて! 10円玉が入る大きさの穴といえば、長方形に切り取るのが普通でしょ!」と怒鳴られたら、どう思うでしょう?
 10円玉をどこから見るかで、形も大きさも違います。ひとつの視点だけで物事を進めると、こういうことが後々起こりうるということです。
 会議では、「営業部=内勤業務が苦手」という前提で話が進みましたが、これは事実ではなく、固定概念(思い込み)です。固定概念でしか物事を考えない状況では、本当に良いアイデアは生まれません。それどころか、後々トラブルや問題が勃発する原因にもなります。
 思い込みに振り回されないために、会議では多面的に考えるようにするクセをつけていきます。多面的に考え議論することができると、批判的思考(クリティカルシンキング)が身につきます。批判的思考力が向上すると、より本質的な意見を導き出すことができます。

※批判的思考力(クリティカルシンキング)とはあらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法。ただし、「批判」の定義については論者によって異なり、多くは単に批判的になるのではなく、自身の論理構成や内容について内省することを意味する。(Wikipediaより引用)

“1視点集中”で考える

 会議を多面的に展開していくために、会議は1つずつ細かい視点に分けて議論するようにします。
 「どのような意見がありますか?」と漠然と尋ねるようなやり方では、漠然とした答えしか出てきません。「アイデアを出すだけの時間」と考えると、アイデアだけを集中して考え出すことができます。
 また、「出たアイデアのメリットだけを考える時間」にすることで、より多くのメリットをさがすことができますし、「出たアイデアのデメリットを探す時間」とすると、より多くのデメリットが見つけられます。そして、「出たアイデアのデメリット面の対策」をみんなで考える時間を取ることで、より多くの策を考えることができます。

【事例after】
「まず、営業部へのサポートのアイデア出しを、5分間全員で出し合いましょう。アイデアだけを一人一言ずつ出してください。では、まずは、進行係の私から。営業の代わりにアポをとること。次、岡倉くん!」
「見積りや請求書の代理入力」
「はい、次、浜田さん」
「手伝ってほしいことを都度受け入れる」
「次、吉川さん」
「……パス!」
(ぐるぐる順番に、時計係がストップをかけるまで一言ずつアイデアだけを出していく。)
「はい、時間です!」
「アイデアが9個出ましたね。次は、今出たアイデアすべてに関して、メリット出しに進みます。では、まずは、『営業の代わりにアポを取ること』に対するメリットについて、風間さんから右回りで意見よろしいでしょうか?」
「営業がどんどん外回りに行ける」
「手をつけていない既存客リストへのアプローチができる」
「うーん……パス!」
「ビギナーズラックでたくさんアポが取れるかもしれない」
「はい、時間です!」
「では、次は、『見積もりや請求書の代理入力』についてのメリットを、吉川さんからどうぞ!」
(出た各アイデアに対するメリットをすべて出し終わったところで、休憩を挟み、次は『出たアイデアに対してのデメリットを考える会議の時間』に入る。)
「はい、では次は、各アイデアのデメリット面について出していきましょう。まずは、『営業の代わりにアポを取ること』のデメリットから。私から右回りでいきます。慣れない仕事でクレームを増やす可能性がある。次、岡倉くん」

次回は、「リスク管理・危機管理力を向上させる」会議です。お楽しみに!

POINT
・多数派意見が正しいとは限らない
・多面的に考え議論しよう
・視点を分解した会議で、より多くの意見を効率よく吸い上げよう