内部昇進者中心の「取締役会の多様化」に必要なポイント

日本企業では従業員の出世レースのゴールを、社長や取締役と考えることが多いようです。また、本社の取締役以外に、株主から独任で選ばれる監査役や、子会社の役員に登用されるケースや、本来は業務執行とその業務執行の監視・取締りにあたる執行役員と取締役が兼務されたり、役員ポスト拡充のために執行役員として登用されたりするケースも少なくないようです。

日本企業のダイバーシティ経営が進まない一因は取締役会にある?

 日本企業では従業員の出世レースのゴールを、社長や取締役と考えることが多いようです。
 また、本社の取締役以外に、株主から独任で選ばれる監査役や、子会社の役員に登用されるケースや、本来は業務執行とその業務執行の監視・取締りにあたる執行役員と取締役が兼務されたり、役員ポスト拡充のために執行役員として登用されたりするケースも少なくないようです。
 一昔前は、外国人が社長などの重要なポストに就任することはあまりありませんでしたが、近年、企業買収・合併などの増加から、大手企業では社長や副社長を海外から迎えるケースが珍しくなくなりました。
 ただ、役員に内部昇進者が多いと言われる日本では、依然として、ダイバーシティ経営のポイントの一つである取締役会のメンバーの多様化は、あまり進んでいるとは言えない状況です。
 取締役会メンバーの多様化を進めるには、採用の段階で将来のダイバーシティ経営を見据えた多様な人材を採用する必要があるでしょう。

安直な社外役員の登用がダイバーシティ経営を支える人材育成を阻害する

 読者の中には「大手企業では外国人や女性を社外役員として登用しているのだから取締役会メンバーの多様化は進んでいるではないか」とお思いになる方がいらっしゃるかもしれません。
 確かに、そうした企業の社外役員は一見すると多様性に富んでいるように見えます。しかし、知名度は高いが経営・企業統治・会計などに疎い元スポーツ選手、理論や知識は豊富でも実務に疎い大学教授、「とにかく女性であれば良いから」と選出された女性から構成される社外役員で「真の多様性」は実現するのでしょうか?
 筆者としては、社外からの登用について、自社のリスク情報格差解消策(例:iERM(統合的エンタープライズリスクマネジメント))や業務執行状況の情報共有が十分に行われ、取締役会で実効性ある議論ができるならば、大いに賛成です。
 しかしその実態は、先に挙げたような社外役員の面々はあくまで非常勤であり、内部昇進者の役員との間に大きな情報格差が生じている場合が多いのです。これでは実効性ある議論や討議、採決など望めません。
 また、安直な社外役員の招聘は、内部昇進者として役員のイスを期待し、企業に尽くしている「未来の役員候補」のモチベーション低下を招きかねません。

執行役員と取締役を戦略的に分けて登用できる状況づくり

 さて、内部昇進者中心の取締役会に話題を戻します。
 筆者は、内部昇進者のすべてが問題であるとは思いません。内部昇進者は、自社の企業風土や実務詳細だけでなく、社内の政治状況まで熟知しているからです。
 しかし、だからといって企業経営や業務の執行状況をチェックする立場として、適任であるとは必ずしも言い切れません。
 そこで、日本企業では曖昧になりがちですが、執行役員はそれぞれの実務領域の総責任者となり、取締役はその実務を司る方々の対応が健全かつ妥当ならしめるよう、オーケストラの指揮者のような役割を担えるようにしておく必要があると筆者は思っています。

人事部・人事権・教育機能の行使がダイバーシティ経営の質を左右する

 取締役会の多様化において、健全化を促す役割は、必ずしも社長のみではありません。誰をどこに配属するか、適材適所を見極めて人事権を行使する役割を担う人事部門が、ダイバーシティ経営の質を左右します。評価基準や考課、査定、面接といった出世に関する点においても、人事部門の担当者や部門長は先入観や固定観念を排除し、公平であることが求められるのです。
 仮に人事部門が、新卒採用時の面接で不健全な対応をしていたり、新入社員研修で多様性よりも“使いやすい人材”の育成を優先したりすると、ダイバーシティ経営の根幹が揺らぐだけでなく、将来の取締役会メンバーや執行役員メンバーの多様化も実現しないでしょう。
 内部昇進の過程で、画一的な人材育成や、革新的なアイデアや社内で問題提起する者の排除は、ダイバーシティ&インクルージョンを著しく阻害するものに他なりません。
 ダイバーシティさえ進めれば欧米諸国のように労働生産性が高まり儲かるようになる、という幻想をあおる有名・無名の指導者・講師・コンサルタントはあまり述べようとしませんが、ダイバーシティ経営のスタートポイントは明確に人権擁護にあります。
 その人権擁護において特に重要なのは、継続的に役職員相互の多様性を理解し受講者自らの多様化も促す教育にあります。
 そのため、筆者は、ダイバーシティ施策や体制づくりも重要ではありますが、ダイバーシティ経営はつまるところ教育に尽きる、とさえ考えています。
 各社の課題に応じて、女性の役職員のロールモデルづくりやモチベーション向上、男性の役職員の意識変革などが、ダイバーシティ経営の教育で金科玉条のごとくもてはやされているような面がありますが、あくまでも、それらはダイバーシティ経営のごく一部をクローズアップしているものであり、ダイバーシティ経営そのものだと誤認させるような教育を行う講師・企業研修会社などが少なくないのは、非常に残念なことです。
 とかく聖域化しがちな人事部門に多様化のメスを入れることや、ダイバーシティ経営を進める役職員の教育をどう行うかについて見据える眼を持つことが、今の日本企業に特に求められていることではないかと筆者は思う次第です。