交渉で成果をあげるためには、絶対にしてはいけないこと!

ビジネス交渉は、相手と喧嘩するために行うものではありません。正論を言えば相手が必ず動いて協力してくれるのなら誰も苦労はしません。仲違(なかたがい)や喧嘩、係争、紛争もなくなります。私どもでは「交渉の成果は、相手の協力度に正比例する」と繰り返し説いています。つまり、相手が協力してくれない限りこちらの交渉成果をあげることはできません。そこで今回は、交渉で成果をあげるためには、絶対にしてはいけないことをいくつか例をあげて説明します。

ガチンコ勝負をしない

 正論を言っても相手が納得し協力してくれないのは、相手も自分の主張や要望が正しい(正論)と思って交渉しているからです。
 また人間には感情があるので、正論を言われてもその相手に対する感情によって受け取り方が変わります。信頼する人から言われたら「なるほど納得」となるのに、不信感を持っている人間から言われたら「納得できるはずがない」となってしまうのです。
 さらに、理詰め(論理だけ)で言い負かされたほうには相手に対する恨みしか残りません。特にガチンコ勝負のあげく力によって強引に承諾させられた場合は「ちくしょう。今度は倍返ししてやる」などということになるでしょう。
 日本人の交渉はお互いが生真面目にやりすぎるため、このような「ガチンコ勝負」になりがちです。しかしビジネス交渉で「ガチンコ勝負」をしても何のメリットもありません。
 そこで「論理攻撃は感情でかわす」というテクニックが必要です。論理の応酬が続き、ガチンコ勝負になりそうだと感じたら「〇〇さんは、いつもキツイことばかり言うのだから、もうお願いしますよ」と笑い飛ばし、その緊迫状態を解(ほぐ)すことが肝要です。
 「感情でかわす」ことによって、相手の気分やその場の雰囲気を壊すことなく「ガチンコ勝負」にならずに済みます。

思い違いをしない

人間関係ができていない場合、相手は警戒し、駆引きの心理が働いてなかなか本心を見せてはくれません。特にビジネス交渉の場合、よほど懇意でない限り相手が警戒をして駆引きしてくるのは当然です。
 例えば、売買交渉の場合、売り手は「提示金額に近いところで売りたい」と思うのに対し、買い手は「1円でも安く買いたい」と思っていますので駆引きすることになります。
 その状況の時には、こちらの質問に対し相手の返答は「一般論」や「省略」あるいは「歪曲」になることが多いと言われます。つまり「一般論」とは「普通はそうだよね」などの返答。「省略」とは「なるほど」「わかった」など、他の言葉を省いた返答。「歪曲」とは、欲しくても「要らない」などと反対のことを言う返答です。
 「思い違い」とは、それらの返答を真に受け、相手の本心と異なる内容で理解してしまうことです。「たぶん、こういうことだろう」などと勝手に「憶測」に基づいて「提案」や「説得」をしても、的外れであることが多く合意には結びつきません。
 そこで、上述の返答の場合は必ず「と言うことは、私どもは○○をすれば良いという理解で宜しいでしょうか?」などの「深掘質問」により、相手の本心などを掴めるまで繰り返し確認することが肝要になります。

「学習性無力症」にならない

 斬新で良い提案をしても、自分の上司(会社で)は何一つ受け入れてもらえないとの悩みを聞かされることがあります。その場合「あなたがそう決めつけたのは、いつの事ですか? もしかしたら、かなり以前のことではありませんか?」と問いかけています。
 もしそうだとしたら、「学習性無力症」に陥っている可能性が高いからです。
 有名な「水槽のカマス」の話があります。何匹かのカマスを水槽に放ち、中央に透明なガラスの仕切りを入れます。カマスのいない、仕切りの反対側にエサを投げ入れると、カマスは仕切りの壁が見えないため、食べに行こうとする度にガラス壁にぶつかります。
 するとカマスは「反対側には絶対に行けない」「反対側でエサが見えても、食べられない」と決めつけてしまいます。その後、仕切りのガラスを取り除き、反対側にエサを入れても、カマスは反対側に行こうとはしません。これを「学習性無力症」と言います。
 暫くした後に新入りのカマスを水槽に放ち、反対側にエサを投げ入れると、新入りは一目散にエサに向かって行ってそれを食べます。それを見て、元からいたカマスも「反対側のエサも食べられるのだ」と気づき、先を争ってエサを食べ始めるという話です。
 ベテラン社員の多くは「そんなこと上司が許すはずがない」「ウチの会社では無理」というバリア(できない理由)が無意識の内に頭の中に張り巡らされており、それを外さない限り、新しいチャレンジに踏み出すことはできません。