交渉相手は「敵」ではなく「パートナー」です

ビジネス交渉では、相手を「敵」と考えるのではなく「パートナー」として考えることが肝要です。それは「パートナー」であれば、お互いの利益をクレイム(奪い合う)のではなく、クリエイト(創造)するからです。お互いの間の課題(問題)を、パートナーシップを発揮しながら、お互いに協力し知恵を絞り、必要とあれば汗をかき合い、解決するのがビジネス交渉です。大切な相手に対して、果実を一人占めするのではなく相応に分け合うことが「累計としての交渉成果」を得るためには不可欠です。

パートナーシップ

 ビジネス交渉における真の「成果」とは、自社(自分)にとって良い成果を得ながら、交渉相手にも納得感や満足感を与えることです。
 それが健全な交渉であり、将来的にも継続可能な関係です。
 自社の利益を確保するということは、取引先の利益を奪うということではありません。交渉を「敵対関係」や「競い合い」と勘違いすると、両者が求める成果(利益など)を奪い合うことしかできず、人間関係を壊し、将来に亘る両社の利益を損なう結果になりかねません。
 キャノン電子株式会社 元社長の酒巻久氏も同様のことを仰っています。
 「材料費を削減するために『設計』に次いで重要なのは『調達』である。
 調達では、自社が買い手という強い立場を利用して、自社利益を優先させるために、調達先に値下げを強要する姿勢になりがちだ。しかしこれでは両者の関係は長続きしない。
 一番大切なことは、調達先と一緒に問題を解決しようとする姿勢である。したがって当社では、調達先からのVE(Value Engineering)提案には、インセンティブ(褒賞)で報いるなどの対応をしている」
 取引先などの交渉相手を「パートナー」と考え、互いに知恵を出し合い、問題解決を図るという心構えが重要だということです。

相手の協力度に正比例

 「交渉の成果は、相手の協力度に正比例」します。
 近視眼的ではなく、累計としての成果を目指すには、日頃から互いに理解し合えるように「信頼の基盤を築く」ことが不可欠になります。
 ビジネス交渉では、必ずしもスポーツのように、勝者と敗者を決める必要はありません。いつも、目先の成果だけが優先されるわけではありません。
 私どもでは、交渉する人は「なるべく敵をつくらないように」と教示しています。特に「職場で敵をつくらない」ことは鉄則です。
 相手を「敵」だと思えば、あなたの表情や雰囲気、言葉の端々などで、刺々(とげとげ)しいメッセージが相手に伝わっている恐れがあります。
 それは「ミラーリング(鏡)」で相手もあなたに対して刺々しい言動になりがちです。
 敵をつくらない方法としては、相手を問い詰めたり、責任追及しないことです。些細なミスを追及して、相手を敵に回さないことです。
 大切にしたい相手や相手企業から「累計としての成果」を勝ち得るためには、相手の自
発的・好意的な協力が必要になります。
 つまり、「相手の協力なしには自社の成果はない」ことを肝に銘じてください。

Win / Perceived Win

 そこで、交渉の心構えとしては「Win / Perceived Win(パシヴドウィン)」を推奨しています。
 その意味は、自社(自分)が成果を勝ち得たにもかかわらず、相手から「譲ってもらった」「配慮してもらった」と思ってもらえるような交渉や合意を目指すことです。
 強い立場を嵩(かさ)にきた「Win / Lose」な交渉は、1回だけの取引なら良いかもしれませんが、長期にわたり大切にしたい取引先に対しては逆効果です。
 なぜなら「Win / Lose」による合意は、相手が不承不承である可能性が高く、それ以降の自発的な協力は望めないからです。結果的に「Lose / Lose」の関係になってしまいます。
 「Win / Perceived Win」を実現するためには、相手に納得感や満足感を与える必要があります。そこで、取引カード(相手と交換できるカード)を多く用意します。
 この取引カードは、当方が獲得したいカード(例えば「価格」や「納期」)である優先カードと、相手に与えて良いカード(例えば「数量」「品質」「仕様」「契約期間」「支払条件」「次回発注の約束」「紹介」など)である譲歩カードの2種類用意します。
 この中からまず当方の希望する優先カードを相手に提示し、それから相手の納得感や満足感を得るため、譲歩カードを切り出しながら、商談を進めていきます。
 多くの取引カードをお互いに交換していくことで「Win / Perceived Win」が成立するのです。